悪霊
死者に対して生者が言う
とても辛いけど
とても悲しいけど
君の死を受け止めて
忘れずに生きていくからと
天国で待っていてくれと
まるで辛いのは悲しいのは
生者だけだとでも言うように
死んで一番辛いのは死んだ本人だ
生者にとって他人の死は
しょせん他人の死でしかない
自分の死にはなり得ない
天国なんてどこにあるのか
成仏したとしてその先は無でしかない
お前を待つことなんてできないんだ
消えたくない
消えたくない
無になんてなりたくない
幽霊が出てくる漫画がある
主人公は幽霊を救うために成仏させようとする
幽霊は成仏を願って心残りを無くそうとする
そんなことがあるのだろうか
俺は成仏したくない
ずっとずっとこの世にいたい
ずっとずっと生きていたかった
消えたくない
消えたくない
無になんてなりたくない
余命を告げられた者が言う
死ぬ前にやり残したことをしたいと
おいしいものを味わったり
映画を観たり
遊園地に行ったり
楽しい経験をしたいと
思い出を持っていくのだと
だが消えてしまうなら
無になってしまうなら
思い出はどこに持っていくのか
思い出も、経験も、知識も
個の中に在ったものは
全て消えてしまうというのに
思い出を作るのに
何の意味があるのか
知っている
それは必死に生きる者への冒涜だと
数多在る、死を待つ者への冒涜だと
そして自分自身への冒涜だと
必死に思い出を作ろうとした
俺への冒涜だと
生者がこんなことを言ったら
石を投げられる
しかし死者が言うのなら
赦されるだろう
だから俺は悪霊になる
放っておけば俺も成仏するらしい
消えてしまうらしい
けれど悪霊になれば
ここに留まっていられるから
俺が俺でいられるから
自分の生を捨てないために
俺の経験を消さないために
お前らの言葉を
お前らが望むように受け止めるために
一番辛いのは俺なんだと言わないために
俺はこれから悪霊になる
お前らの悲しみを受け止めるために
悪霊になる
【詩】マイノリティの“死”“生”感 沢樹一海 @k-sawaki
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