第315話:派閥とかいろいろと
第十二騎士隊の派閥による立食パーティ。隊として参加しているのは第十一、第九、第八と第四、さらに個人参加として第六、第七も参加している。
ユニオン騎士団の中でも最大派閥であり、財界とも繋がりが深く、従来のユニオン騎士団の弱みをきちんと補う形として大きな意義を持つ。
ゆえに騎士のみならず参加しているパーティは大盛況であった。
「おー、さすが第十二騎士隊が誇る共有財産、スーパーエースのイールファス様だな。あっちへこっちへ引っ張りだこだ」
「ああ」
騎士隊としてではなく個人参加をしている第六のディン、第七のクルスは二人して隅で様子を見守っていた。騎士隊の立場が曖昧、どころか第七に関しては明らかに別派閥寄りのため、なかなかこういう場では居心地がよくない。
第六も考え方は第十二よりでも、派閥の活動は積極的ではなく今回も新進気鋭の若手を送り込むだけに留まっている。
色々とあるのだ、どの騎士隊もそれぞれに。
「どうした、こんなところで。我らが世代のエース様たちが」
「よく言うぜ、テラ。この前、イールファスと組んで戦士級撃破してたろ?」
「便利屋イールファスが全部やってくれただけさ」
「よく言う。それなら君に勲章など授与されない」
「はは、ラッキーだったね」
絶好調なのはテラも同じ、この前も第八の仕切りで行われたダンジョン攻略の陣頭指揮を取り、派閥を股にかける便利屋イールファスも上手く運用して勲章をもらったばかり。当該国の騎士曰く、ヌシ含め怪物が三体いた、らしい。
新聞にもでかでかと載っていた。
「クルス君もまた『斬罪』とやり合ったって?」
「取り逃がしたがな」
「よくやるよ。この前、第二の副隊長がやられたばかりだろ? マスター・ドゥリス、最長任期の副隊長で、歴戦の猛者だった方だ。同じく、長く現役だった騎士も同時に仕留められた。三人まとめて……大事件だ」
「耄碌していたんだろ。自分の腕が錆び付いていると気づかず、相手との力の差を見誤った。三人とももう、騎士じゃなかった。それだけだ」
「……辛辣だね」
「事実だ」
冷たい物言い、最近のクルスは剣も仕上がり充実してきているが、クロイツェルの悪い面、尖った部分も引き継ぎつつあった。
目つきからして学生時代よりもさらに鋭く、寝不足なのか隈も浮かぶ。
だが、強い。確かに腕も落ちていた部分もあるかもしれないが、それでも隊長格とそれに従う古参の騎士、三名をまとめて相手取り殺してのける怪物相手。
それを相手に隊長随伴とは言え何度も交戦し、生き延びている。
この時点でもう、普通ではない。
「おや、第七、第八、第六の若きスターたちがこんなところで談笑しているとは……あまりよろしくないね。積極性は大事だよ、力ある者には相応しい場がある」
壁の花となっていた三人は同時に敬礼する。
相手は第九の隊長、『貴公子』シラー・キスレヴであったから。
「いいよ、無礼講だ。騎士は、ね。リンザール、今手すきかい?」
「見ての通りです、マスター・キスレヴ」
「はは、ならいい。紹介したい人がいる。ついてきたまえ」
「喜んで」
さっきまで仏頂面だったクルスであったが、シラーが現れると同時に笑顔を作り、そのまま彼の部下の如し振舞いでついて行った。
「あいつ、気に入られてるよなぁ」
「初っ端の案件からの付き合い、未だ第九に益をもたらし続けているしねえ。それにしても見なよ、第九の若手連中の顔、エグイって」
「……ひえ~」
ディンとテラは第九の隊長に、必要以上に気に入られた『結果』を見て身震いしていた。まあ、結果を出し続けている若手が、ああして自分を慕っているように振舞っているのだから、可愛くも映るだろうが――
「俺らも挨拶回りしてくるかぁ」
「私はしばらくぼーっとしているよ。隊長に呼ばれたら行くさ」
「欲がねえなぁ」
「君のように必要以上のやる気を出す必要がないだけさ、独り身なんでね」
「うっせー」
今年、アスガルドの騎士団に所属する女性と籍を入れ、正式に結婚したディンは面倒くさがりながらも仕事のため、これから築くであろう家庭のために奔走する。
それを眺めながらテラはゆるりとワインに舌鼓を打つ。
ちなみに現在はどちらも騎士団に所属したまま、休暇の際にお互い行き来して会うに留まっているとかいないとか。
「……テラ君」
「あ、今行きますよ」
「君はどんどん、マイペースになっていきますね」
「隊長に似たんですよ」
「……はぁ」
ああ言えばこう言う部下に隊長であるオーディはため息をつく。
○
第九のシラーに連れ回され、あっという間に深夜となったユニオンの街並みを二人の騎士が歩く。
第七のクルスと第四のイールファス、どちらも大活躍中の若手騎士である。
「おっさん連中の話は長すぎる」
「同感。任務より疲れる」
人の気配がない通りのため、どちらも仕事用の作り笑いはしていない。まあ、クルスはともかくイールファスはまだ作り笑いが下手なので本人の努力はあまり意味を成していないが。その下手な作り笑いがバカ受け、らしい。
「調子はどうだ?」
「普通。そっちは?」
「普通だな。いや、よくない。クソ上司が金にならん仕事ばかり押し付けるから、おかげで成績も昨年から横ばいだ」
「なら、それは絶好調だと思う。俺、数字でクルスに勝ってないし」
「数字だけな。勲章の数はそっちが上だ、質も」
「そこは俺、いい仕事回してもらっているから。派閥パワー」
ムキ、っと肉体を誇示するイールファス。
なお、ずっと細身である。
「……ノアも好調らしいな」
「あいつは何でも速いから。あと物怖じしない。普通の神経してたら、仕事終わったんで同行していいですか、ってマスター・フェデルには言えない」
「……それで上から可愛がられるのがあいつのキャラだ。存在がインチキなんだよ、あいつは。嫌いだね、打算無しで全部上手くいくタイプは」
「クルスは全部打算ありき」
「凡人なんでな」
「ぶは、出た。二年目で新人賞獲ったやつのセリフじゃない」
「……連覇するつもりだった。本当は、三回」
「初年度は天地が引っ繰り返っても無理。数字的には新人賞のアンタッチャブルレコードだった。新人枠が人を使い倒して荒稼ぎしたんだから、あれはもうカテゴリー違いだっただけ。若手の新派閥、最近は停滞気味だけど」
「……全部ファウダーのカスどものせいだな」
「そう。平時なら、エイル先輩がメインストリームってこともあったかもしれないけれど、このご時世だとちょっときつい。力のない騎士は」
「……」
同期の辛辣な言葉にクルスは顔をしかめる。確かに正論であるし、彼女がこれまで武器としていた部分が、現在足枷であることもまた事実。それでも若手の中では抜けた存在であることは事実であるし、それは素晴らしいとは思うのだが――
どちらにせよ、現在最も勢いのある若手は、
「だから、ソロンが一等賞」
「……ちっ」
輝ける男、第一騎士隊所属のソロン・グローリーである。この荒れた時代を誰よりも乗りこなし、現在ぶっちぎりのトップ。
数字でも昨年新人賞を取ったクルスより上で、それ以上に功績がえげつないことになっていた。元々、いい仕事が回ってきやすい第一で上手く立ち回りながら仕事を増やす傍ら、彼は独自のやり方で一気に伸ばした。
それが、
「ファウダーキラー、か」
「それ」
彼の異名の一つとなったファウダーキラー、国家転覆を謀ったり、商会の抗争などに与したファウダーの構成員を打ち倒し、それで一躍彼は昨年末から今年にかけて跳ねた。それまではむしろ、目立たぬ方であったし、クルスはもちろんノアやイールファス、ディンやテラに比べても一段落ちる評価であったのだ。
しかし、あの男がそれで終わるはずがなかった。
結果、期末も迫る現在において、他の追随を許さぬ評価を得ている。
逆にクルスなどはファウダーでも最強格の相手と交戦し生き延びているが、仕留め切れずに上手く評価や金に繋げられていない状況であった。
彼ら黄金世代、その総決算とも言える三年目の新人賞に関しては、ほぼソロンで固まった、と言うのが大方の見方である。
こればかりは一発で捲れるものでもない。
それこそファウダーの心臓である『創者』シャハル、レイル・イスティナーイーを捕らえるでもしなければ、その差が埋まることはないだろう。
それは不可能と言うこと。
「……エイル先輩に負けた理由はわかる。君らに迫られている理由も理解している。だが……ソロンに関しては本当にわからないんだ」
「負け惜しみじゃなく?」
「ああ。負けの理由が見えない。それがどうにも、気持ち悪くてな」
「……俺は何となくわかるけど」
「本当か?」
「でも、教えない。それはフェアじゃないし、あいつを敵に回すと面倒」
「敵、か。不穏だな」
「俺たちは競争しているから全員敵みたいなもの。俺は別に仕事で競い合う気はないけど、あいつはそのつもり。クルス・リンザールに勝ちに来た、それだけ」
「……」
「あいつは本気。俺はまあ、んー、明日暇な時間ある?」
「突然どうした? まあ、作れないこともないが」
「なら、久しぶりに試合。俺はこうしてガス抜きしていれば収まる優良物件。あいつとは違う。でも、あいつもたまに構ってやると少し手加減してくれるかも」
「何の話だよ?」
「同類の、性質の話。じゃ、また明日」
「あ、ああ」
相変わらずわけわからん奴だな、とクルスは友の背を見送る。時間を指定していないのだが、その辺はやりくりしてから伝える、と決めた。
明日は仕事もそれなりにあるし、食事の約束もある。
それでも、
(定期的に確認しておくのも悪くないか、天才どもの現在地は)
あの天才との試合は差し込むだけの価値がある、とクルスは判断した。
(……三年連続、結局一度きりか。あのクソ上司には及ばず仕舞い)
三年連続新人賞、レフ・クロイツェルの記録には届かなかった。まあ、それは一年目の時点で確定していたのだが、残り二年は絶対に獲るつもりだった。
しかし、今年はもう獲れない。
その、及ばなかった事実がクルスの苛立ちを募らせる。どうにか勝ち目はないのか、今はもう間に合わないにしても勝ち筋はなかったのか。
そんなことばかり考える。
「……クソが」
今更、であるが――
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