第27話:新学期へ

 クルスは一人、本館の屋上に足を運ぶ。以前ディンから教えてもらったダンスパーティの会場、それは想像以上に華やかなものであった。男子の大半は元がフォーマルな造りである制服だが、女子は皆思い思いのドレスを身にまとっている。

 飾りつけも豪華絢爛、設備のデザイン、設計が魔法科担当だけあって最先端の魔導技術も取り込まれている。ギラッギラの照明は蝋燭だけではありえない。

 常にオケが背景となる音楽を流し、今は小休止なのかまだ始まっていないのか、それで踊っている者は少ない。会食メインといったところ。

「とりあえず」

 クルスはお腹をさする。正直空腹が限界に達していた。

「メシだ」

 普段ならもう少し気を遣うところだが、生憎今のクルスに気遣いをする余裕はない。腹が減っては戦が出来ぬとばかりにモリモリ食べる。

「うんめ、うんめ」

 何でも良いから腹に詰め込め、とばかりの悪食っぷり。

 若干、周囲が引いている。

「あ、イールファスにファナ」

「「こんばんは」」

「あはは、仲いいね、二人とも」

「「普通」」

 イールファスはクルスと同様に制服。そもそも彼が制服以外を着ている姿をクルスは見たことがない。対してイールファナはすらっとした黒色のドレスに身を包んでいた。サラサラした銀髪と純白の肌によく合うドレスである。

「もうすぐダンスの時間」

 イールファナは暗にお相手は、と問いかけてくる。彼女のサルでもわかる魔導学講座を通してそれなりのエスパー能力は鍛えられたつもりである。

「怪我があってもなくても相手はいなかったよ」

「そう。イールファスは途中で飽きるから、そのあとなら踊ってあげる」

「あはは、お気遣いありがとう、ファナ」

「ん、クルスはばかあほまぬけだけど、一応生徒だから」

 そう言って去って行くイールファナ。イールファスは少し考えこみ、

「何故イールファナはファナで俺はイールファス?」

 というどうでも良いことを問うてきた。クルスは苦笑しつつ、

「何となく言い辛いから、かな?」

 とお茶を濁す。「ならいい」とてくてく去って行くイールファス。謎である。

「皆はどうしているかな?」

 徐々に皆、パートナーを連れ立ってライトアップされた舞台へ上がっていく。クルスら壁沿い勢は悲しみの涙で頬を濡らしながら、やけ食いを開始していた。

 クルスも止めどなく食べているので、はたから見るとそう見えるだろう。

「あ、エイル先輩だ」

 さすが首席、とばかりのポジショニング。一段高いところでお姫様みたいな女子を引き連れ、王子様っぽく振舞う様はやはり格好いい。

 クルスの視線に気づいたのかにこやかに手を振ってくれたが、隣のお姫様っぽい女子から鬼の形相で睨まれたので軽く手を振り返すだけにとどめた。

 世の中色々な愛の形があるんだなぁ、とクルスはしみじみ思う。

(ファナはあそこにいるし、あれ、アマルティアとフレイヤがいないなぁ。何もしなくても目立ちそうなものだけど。何してるんだろ?)

 アマルティアとフレイヤが見受けられないが、あれだけ人も多いのでどこかにいるだろうとクルスは勝手に納得し、負け犬たちの晩餐に参加する。

 途中、仲間だな、という目配せが幾度かあった気がした。ちょっとディンっぽい人たちだな、と思ったのは内緒である。そしてそのディンはと言うと――

「……ディン、あいつ、あそこまでして」

「あいつ、四学年のトロルに行ったらしいぞ」

「相変わらずデケエな。そして、ディンの奴表情が死んでやがる」

「あれほど羨ましくないキスマークもそうないな。あれだけは許せる」

「我ら不滅団の同志だけはある。身体を張ってやがるぜ」

 相方のおかげで異常に目立つペア、その片割れがディンであった。もう一人は四学年騎士科の有名人、二メートル近い巨躯と計測不能の体重を兼ね備えた女傑。その破壊力に特化した剣は並の受けをぶち壊す、通称トロル騎士。酷いあだ名である。

 が、そう言いたくなる気持ちは理解してしまうだけの立派な外見ではあった。

「……さ、めしめし」

 クルス、そっと視線を逸らす。それにパートナーのいない自分が茶化すのも違うだろう。彼ら負け犬のようにはならないぞ、とクルスは固く誓った。

 他にもクラスメイト達は、上位勢ほどがっちりパートナーを捕まえていた。やはり学園内にもヒエラルキーがあり、騎士科は成績優秀者ほど強い。

 ではなぜディンだけ、というのは日ごろの活動、言動、その辺りにあるのだが、本人に自覚はない。哀れ。

「きゃあ! デリング様よ!」

「デリング、様」

 ぽかんとするクルスの視線の先には、エイル先輩たちと同じく一つ高いステージに現れたデリングがいた。手を引きエスコートする相手は騎士体験で目にしたアスガルドの王女様、である。

 幸せそうな様子からすると、彼女はデリングのことが好きなのだろう。

「ままならないんだなぁ」

 あそこにはヒエラルキーの上位者が立つ、今更ながらクルスはそれに気づく。五学年首席、三学年三位と王女様。果たして次は誰が出てくるか。

「んなッ!?」

 クルスは顎が外れそうなほど驚いてしまう。アマルティアが少女を引き連れて現れたのである。どっちも可愛らしいドレスを着ているのだが、彼女の一部は可愛らしいどころか兵器と化している。男子全員、パートナーがいる者も含めてほぼ全員が一瞬、彼女の胸元を凝視してしまった。いくつかのペアで紛争が勃発してしまう。

 それ以上にクルスは彼女があそこに立っていることで驚いていたのだが。そう言えば名家出身らしいし、もしかするともう一人の少女が特別なのかもしれない。あそこに立つ理由が成績ではないことだけは確かな事実である。

「相手、女の子だったのか。どこかで見たことある気がするけれど」

 何となく見覚えがあるようなないような――

「我らがアスガルド王国第二王女、ビルギット殿下と同盟国イリオス王国王女、ソフィア殿下です。皆さま、盛大な拍手をお願いします!」

 司会進行と思しき人、よく見ると剣闘の教師が紹介がてら皆に拍手を促す。

 盛大な拍手、クルスも食べながら拍手をする。

(あー、何か見覚えあると思ったら、騎士体験の時にビルギット殿下と一緒にいた子かぁ。あの子がイリオス王国の王女様なんだ。へえ)

 ド田舎出身のクルスが王女様を知る機会などなく、初めて姿を拝見して少し驚いていた。とても可愛らしい、可憐な姿で全然関係ないのに少し誇らしくなってしまう。

「それでは、優雅に、時に激しく、何よりも楽しく踊りましょう! ミュージック、スタァァァァトッ! 最高の夜にしようぜェ!」

 若干滑っている気がある。しかし本人は楽しそうなので無問題。

 音楽と共に皆、優雅に踊り出す。それを眺めている負け犬たちの心境は殺意と悲しみに満ち溢れていたが、クルスは彼らの洗練された動きを見て「参加しなくて良かった」と心の底から思っていた。当たり前のように皆踊っているが、貧農の出のクルスは当然踊り方など知らない。講義でも多少やったがさわり程度である。

 上流階級にとっては当たり前でもクルスにとっては未知の体験。今年はとりあえず外から眺めて、来年はパートナーを見つけ、練習しなきゃと思うクルスであった。

 さすがに食い飽きたので食休み中のクルス。

 それにしても皆ダンスが上手いなぁと感心していた。壁沿いの負け犬たちは血の涙を流しながら何故か筋トレを始めていた。

 ちょっと気が狂い始めているのかもしれない。

「随分暇そうですわね」

「え?」

 この壁沿い、負け犬コーナーで聞こえるはずのない声がして、クルスは振り返る。そこには顎が外れるほど美しい女性が立っていた。

「一曲いかが? わたくしも暇ですの」

 真紅のドレスに身を包んだ麗人。長い艶やかな金髪を垂らして、まあクルスが見たことないほどの美女がそこにいる。そしてクルスに声をかけている。

「あの、どちら様でしょうか? どなたかお間違えでは?」

 おそるおそる聞き返すも、露骨に顔をしかめる女性。しかめた顔も美しい。

「貴方は同級生の顔も忘れてしまったのかしら?」

 同級生、該当する人物は一人しかいない。そして、一つ合致する記憶があった。そう、風呂上がりのフレイヤである。ようやく現実と幻想が重なる。

「え、と、俺、踊るの下手だと思うよ。講義以外でやったことないし」

「構いませんわよ。ただの暇つぶしですもの」

「そういう、ことなら」

 まさかまさかの大番狂わせ。

 負け犬たちの悲痛な叫びによって、踊っている者たちも異常な状況に気付き始める。名家ヴァナディース家の才媛。多くの優秀なイケメンたちが特攻するも全員撃沈。デリング以外は手を取ることすら不可能とされていたのに。

「なん、だと」

 それを見たデリングたるや一瞬で魂が消し飛んでしまう。無意識でもステップを間違えないのはさすが名門ナルヴィ家の男。しかし、意識不明である。

「リードは男性の役目ですわよ」

「だから、やったことないんだって」

「ステップが違う。なんてたどたどしい足ですの!? 優雅さが皆無、何故かステップから土の匂いがしますわ。やる気ありまして!?」

「やる気満々だよ! 全力でこれなんだから」

「ハァ。指導内容が増えましたわね」

「へいへい、どうせ俺は出来の悪い生徒ですよ」

「自覚があるならば良し。来年までに叩き込んで差し上げます」

「それは素直にありがたい」

「素直で宜しい。来年はこの場全員を踊りで圧倒しますわよ。よろしくて?」

 当たり前のように来年も踊ろう、という提案をしてくるフレイヤ。近くで踊っていたイケメンがショックのあまりステップを踏み間違えパートナー共々倒れ込んだ。

「愛想をつかされないように頑張ります」

「結構」

 微笑む彼女の美しさったら、クルスは自身の幸運に苦笑してしまう。

 同じ倶楽部メンバーかつ、直前でケガをしたからきっと彼女は気遣ってくれたのだろう。ノブレスオブリージュ、いく度も彼女のそれに救われている身としては、いつか返したいと思う。

 どうやって返すのかは何も思いつかないのだが。それでもいつかは。

 そして返済の暁には、改めて隣に立ちたいと思う。それは遠い日、一生来ることのない夢想かもしれないが、それでもそこを目指して頑張ろうと思った。

「あら、そう言えばわたくし、大事な言葉を聞き忘れておりましたわ。淑女が殿方のためにドレスアップしていますのよ、何か言うべきことがあるのではなくて?」

 一々、催促すら絵になる女性なのだ、フレイヤ・ヴァナディースは。

「とても美しゅうございます」

「あら、嬉しい」

 この学園では想像も出来ないことばかり起こる。あの小さな世界では考えもつかない景色が広がっていた。ここにいたい。いれるような自分になりたい。

「俺、強くなるよ。そして、いつか君を越えて見せる」

 唐突な宣戦布告。フレイヤは一瞬驚きながらも――

「上等ですわ。わたくし、安くはありませんわよ」

 意図をくみ取り挑戦を受けてくれた。頑張ろうと思う。彼女を目指して、超えて、堂々と引け目なく隣に立つために、そのための努力ならいくらでも頑張れる。

「はい、交代」

「ちょ!?」

 ひょいとイールファスがフレイヤをかすめ取り、代わりにイールファナをクルスにぶつけてきた。なんとまあ自然体な略奪であろうか。

「珍しいですわね、毎年すぐ飽きて帰っているのに」

「ん、妹が、ちょっと拗ねてたから」

「それはもっと珍しいですわね」

「うん。クルスが来てから面白いことばかり起きる」

 雑踏の中、フレイヤとイールファスが消えていく。残されたクルスとイールファナであるが、踊りにフレイヤの気遣いは皆無であり、当然ぐちゃぐちゃになる。

「ばかあほまぬけ」

「罵倒されるぐらいへたくそなのは自覚してるよ」

「サルでもわかるダンス講座を作ろうと思う」

「……すごいね、シリーズ化するんだ」

「クルスがばかだから」

「面目ない」

 それでも徐々にカタチと成っていくのは、決してクルスだけが慣れたわけではないのだろう。彼女の歩み寄りが無ければ、まともな踊りになるはずもない。あのイールファナが誰かに歩み寄るだけである意味事件なのだが、彼はよくわかっていない。

「そろそろイールファスも姉離れさせないといけない」

「なるほど」

「来年、イールファスは別の人と踊る」

「なるほど」

「……私は遺憾ながらクルスの先生だから、面倒を見る責任もある」

「……なる、ほど?」

「つまり論理的帰結、来年は一緒に踊らねばならない。大変遺憾」

「な、なるほどぉ」

 あれ、これ不味いのでは、とクルスの頭の中で混沌が巻き起こる。先ほど、フレイヤと踊るという話をした気がする。

 明言したわけではないが、話の流れ的には間違いないだろう。そうなるとこれ、ダブルブッキングなのでは、と考えていたところで――

「クルス君!」

 背中にとてつもない質量を感知した。

「あ、アマルティア!?」

 抱き着くのは同じ倶楽部メンバーのアマルティアであった。ドレスを着こんでいるのに実に軽快なタックルである。

 若干口内で血の味がしたのは怪我のせいだと思いたい。

「私もマスターと踊りたいんだけど、私のお友達がどうしても挨拶したいって言ってるの。ファナちゃんと踊ってるからその子をよろしくお願いしまっす!」

「……身勝手極まる」

 不機嫌極まるイールファナを拘束し、アマルティアは鼻歌交じりに去って行く。

「あ、来年は私と踊ろうねー! 約束だよー!」

「……ほう」

 じろり、と睨むイールファナと何がそんなに楽しいのか、さっぱり理解できないほど楽しげなアマルティアが去って行った。クルスは頭を抱えたい思いである。ダブルどころかトリプルブッキング、いったい何が起きたらこうなってしまうのか。

 大変、実に大変な状況である。

「超面白い」

「大変興味深いお話でしたわね」

 すーっと滑るようにイールファス、フレイヤペアが通り過ぎていく。とても美しい笑顔であったが、たぶん聞かれていたのだろう。笑顔の下、そこに在る表情を想像するだけで怖気が奔ってしまう。まあ、来年までは覚えていないだろう。

 そう己を奮い立たせ、クルスは上を目指した。

「おや、クルス君か」

「シャアッ!」

 蛇ですか、と問いたくなるほどの威嚇を見せる女性を巧みにリードするエイル。

「お姫様がお待ちだよ。君も隅に置けないね」

 ウィンクをして去って行くエイルが指し示した先には、少女が待っていた。

 とても可愛らしい女の子である。面識はないと思うのだが。

「あの、クルスさん」

「初めまして、ソフィア殿下。私、アマルティア・ディクテオンと同じ倶楽部に所属しております、クルス・リンザールと申します」

 初めまして、そう言った時、何故か少女は顔を歪める。

 不興を買ってしまったか、とビビり倒すクルス。

「いえ、アマルティアからよくお話を伺っておりますので、初対面の気がしなかったのです。こちらこそ初めまして、ソフィア・イル・イリオスと申します。以後お見知りおきを。蝶の採集を得手とされているとか」

「え、ええ。子供っぽい趣味だと言われるんですけど、昔からの習慣でして。ゲリンゼルという片田舎出身ですのでどうしても遊び場が山川になりがちで、あはは」

「素敵な趣味だと思います。私もちょうちょが大好きなので」

「そうなんですね」

「ゲリンゼル、一度行ってみたいです。どんなちょうちょがいるんでしょうか」

「普通の種類ですよ。それにしても嬉しいです。アマルティアときたらゲリンゼルって言っても全然ピンときてなくて、そんなもんかな、と思ってました」

 ソフィアはふと、悪戯っぽく微笑む。

「ふふ、アマルティアは隣町の名前も曖昧なので」

「それは、変わった、あれ、この会話、どこかで」

「私のたった一人の友達です。よかったらクルスさんも、私とお友達になってくださいますか? せっかくのご縁ですので、よろしければ、ですけれど」

「え、あ、もちろん、喜んで」

「嬉しい。約束ですよ」

 ソフィアの笑顔、何か思い出しそうな、何かあったような、うんうん頭を悩ませていると、気づけば音楽が鳴りやんでいた。

「ありがとうございます、クルスさん。それではまた」

「いえ、こちらこそ!」

 可愛らしい少女である。どこかで見たことがある気はするのだが、あれだけ可憐な少女を忘れるとは思えないし、気のせいだろうとクルスは納得する。

 まあ、街でたまたま出会った少女が王女様だと結びつく者もいない、のかもしれない。帽子があったとはいえ顔も見ていたので怪我さえなければ思い出したかもしれないが。これもまた何かの縁、いずれ結びつくこともあるかもしれない。

「さーて、帰ろう帰ろう」

 いやぁ、楽しい夜だったなぁと部屋へ帰ろうとするクルス。

 しかし――

「クルス・リンザール、貴様だけは許さん」

 ぶちぎれたデリングがすやすや眠る王女様を抱きつつ、通り抜けざまに毒を吐いて行った。まあデリングに関してはよくあることなので無視するも、どうにも男子全体から凄まじく冷ややかな視線が向けられていた。

 顔を合わせるだけで唾を吐く者すらいる始末である。

(これは……まさか――)

 この日より、こう色々な何かが少しずつ動き始めた。キスマークだらけでお持ち帰りされるディンの行方は数日、ルームメイトであるクルスすらわからなかったし、倶楽部ハウスに顔を出すと何故か皆、普段より二割増しで厳しかった。

 一応病み上がりのはずなのに、気にしてくれたのはエイルだけである。

「まあいっか」

 しかしクルス、楽観的なため特に深く考え込まない。

 トリプルブッキングなど来年にはみんな忘れているだろう、とへらへらしていた。それがのちに大いなる災いを呼ぶのだが、今はまだ誰も知らない。

 とりあえず――

「対クルス・リンザールの会議を始める。奴は、我らの大敵である!」

 不純異性交遊撲滅騎士団においてクルスは不倶戴天の敵と成った。

「皆、力を貸してほしい!」

 何故かデリングまで活動に参加しているのだが、これはまた別の話である。


     ○


 色々あった年末を越え、新たな年が幕を開けた。

 学園長であるウルは未だ学園に戻らず、新学期のスタートは統括教頭が指揮を執る。百年ぶりの遭遇、謎だらけの状況に果たして光が差すのだろうか。

 ゼロス卿、至高の騎士と謳われた男に何があったのか。

 そして、ユニオン騎士団に何かが紛れ込んでいるというのは果たして事実か。

 未だすべては闇に包まれている。

「おい、クルス、手紙来てるぞ」

「手紙ぃ? ふわぁ、手紙、てがみ、手紙ッ!? まずい!」

「お、どしたどした?」

「ヤバい、友達に書き忘れてた。言い出しっぺなのに」

「あっはっは。そういうことか。とりあえず読んでやれよ。その返事を返してやりゃ良いさ。どーせ、あっちもクルスが大変なのは理解してるだろ」

「そ、そうするよ」

「んじゃ、俺は早朝ミーティングあるから行ってくるわ。あと、老婆心ながらあれだぞ、女性関係は気を付けとけ。女もそうだし、男の嫉妬もやべえからな」

「なんのこと?」

「……いつか火傷しないことを祈るぜ」

「よくわかんないけどいってらっしゃい。俺も、これを読んでから体を動かすかな。もう二度と、あんな無様を晒す気はない。強くなるぞ!」

 今はまだ、少年は謎の欠片にすら触れただけ、辿り着くのは遥か先の事。

 今はまだ、強き騎士を目指すただの少年である。

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