第15話:一歩ずつ、前へ

 倶楽部ヴァルハラの一員になったクルスはすぐさまこの幸運に感謝することになる。熱血ドラマを繰り広げたフレイヤはすぐさまさじを投げたが、エイルは一学年の基礎から教えた方が早いと丁寧に、かつ要点をかいつまんで叩き込んでくれた。

 テストの問題を教える、という近道こそ誰も教えてくれなかったが、エイルはわからないことをわかるまで掘り下げ、一つずつ疑問を潰す果てない作業に付き合ってくれていた。講義の復習、疑問点をまとめ放課後にエイルらを頼る習慣が出来た。

 一からの学びと今の疑問を解消する両輪がヴァルハラにおける座学の骨子。

 実技に関しては――

「フォームをソード・スクエアにしている理由は?」

「え、と、テュール先生から指定されて」

「なるほど。ならば変えられない、か。向いているとは思えないがね。まあいいだろう。まずは繋ぎの意識、だ。袈裟懸けに断つ、その後でどうするのかを常に考え動く。相手をどう動かしたいか、どう捌かせ、勝ち切るかを」

 これまた五学年首席、エイルにより攻めの意識を体系的に叩き込まれる。

「攻めは能動的、受けは受動的、なんて言われるがね。私から言わせると最終的にはどちらも能動的に行うべきさ。駆け引き、誘導、ありとあらゆる手を使い、己の意図通り相手を動かし、勝利を掴む。君は眼に頼り過ぎで、考えが無さ過ぎる」

「……で、でも、戦闘の短い間にそんなに考えられますか?」

「考えておくのさ。事前にね。自分の仕掛けならそこから相手の受けに応じてコンビネーションを数パターン用意しておく。あとはただの選択。だからこそ、手札は多いに越したことはない。相手の戦型、性格、それに合わせて選び取るために」

 受けに特化し、見てから動いていただけのクルスにとっては、皆の当たり前が新鮮であった。攻めの意識、思考する戦い方。

「どうしたい? どうさせたい? さあ、常に考えるんだ。たくさん考え、脳に汗をかき、削る作業はその果てにある。君はまだ盛り付ける段階だよ」

「はい!」

 エイルが教えていることは、それこそ騎士の家が子供に教えるような基礎の基礎。長い時を経て体系化され、複雑化した騎士の剣は、思考無しに捌けるものではなくなっていた。『先生』から学んでいた剣はもっと感性に寄っていたが、凡人のクルスにとっては思考する剣は水に合った。百年の平和が育んだ技術、である。

 基礎の基礎を叩き込まれた後は――

「このわたくしが胸を貸して差し上げますわ」

 三学年二位フレイヤ・ヴァナディースによる稽古が待っていた。

「……胸を」

 クルスはごくりとつばを飲み込む。押さえ込んでなお、はちきれんばかりの胸。

「……邪なことを考えていませんわよね?」

「もちろんさ!」

 威風堂々、クルスは知っていた。この選択で刹那でも惑えば意図を悟られてしまう。対エッダ用女子の友人に対する学びが彼を救った。

 ジトっとした視線は向けられていたが。

 どちらにせよ――

「遅い! もっと早く、繋ぎが甘い! 単調な攻めですわね。今度は雑ですわよ! 意図が散漫! 意志薄弱! 惰弱脆弱貧弱!」

「最後の方は、ただの、悪口だ!」

 同学年ゆえの遠慮のなさによって生まれる鬼のしごき。講義でボロカスになった後、放課後にここまで絞られるため、もはや余裕などなかった。

 その様子を、

「……クルス・リンザール」

 鬼の形相で林の影から窺っている学年三位がいたことは余談である。

 座学は主にエイル担当であったが、魔導関連に関してはイールファナが担当する。

「ばかあほまぬけ」

 ただし、イールファス同様教えることに適性はない。

「すいません。これ、今日の飴です」

「……よきにはからえ」

 定期的に飴でご機嫌を取らねばすぐにさじを投げてしまうほどである。

「座学でも算術の基礎はばっちりなんだけどね。文学も魔法も古過ぎる」

「歴史はそもそも知識が無さ過ぎですわ。本当に文明人ですの?」

 エイルは首を傾げ、フレイヤは罵倒してくる。ナチュラルに。

 ただし、イールファナは、

「クルスの魔法の知識は古くてダメダメ。でも、面白い」

「面白い?」

「例えば火を起こす基本術式、クルスのは非合理的に映るけど、魔導革命以前ならこれが一番正しいとされていたカタチ。いずれ失伝するであろう、歴史遺産」

「……全然嬉しくない」

「百年前から時を超えてきたみたい。だから面白い。顧みることで新しい発見があるかもしれないので、私はそこそこ満足してる」

「そりゃあ良かったよ」

「クルスがばかなのは事実だけど」

「ごめんなさいね、馬鹿でさァ!」

 魔導革命以前と以後では基本構造からして異なっている。クルスが一番講義でついて行けないのが魔法学と魔導学の違いであった。学んだ知識が通用せずうんうん頭をひねっていたのだが、イールファナによってその理由が判明していた。

「あまいもの求む」

「わたくしも口寂しくなってきましたわ」

「はいよ、飴ちゃんだ受け取れー!」

「「わーい」」

 学園から支給されるクルスの生活費、その多くが甘味に消えていた。

 その代わり、少しずつだが、『わからないこと』も消え始めていた。


     ○


 相変わらずほとんどの講義においてぶっちぎりの最下位であるクルスであったが、たった一つだけ最初からそれなりにこなせる講義があった。

 それは、剣ではなく拳闘術の講義である。

「剣あっての騎士。かつては剣を失うことイコール恥として、あまり顧みられることのなかった技術ですが、この百年にも渡る平和によって帯剣出来ぬ場も増えてきました。それにより拳の技術もまた重要性を増しています」

 講師はクロイツェル同様外部からの客員講師バルバラ。拳闘なのに女性なのは驚きだが、講義を重ねるにつれて無用の考えであることを知る。

「小手先ですね、イールファス」

「……むむ」

 拳でも最強、イールファスであったがそれは学生の話。講師である彼女からするとまだまだひよっこなのだと思えるほど、彼女の拳は突出していた。

 騎士科ではただ一人、騎士ではなく拳闘の世界に身を置いていた拳闘士出身、ウルがスカウトしてきた強者であった。就任当初は風当たりも強かったが、拳一つで全てを黙らせてきた女傑である。噂ではヒラの先生では最強なのでは、と言われていた。

「センスだけでは行き詰まりますよ」

「イエス・マスター」

「分かればよろしい。ディン、相手の胸ではなく拳を見なさい。デリングはそもそもの話、対戦相手を見るように。あなたの相手はフレイヤではありません」

「「……ぬう」」

 俯くは三学年上位の二人。そして同時に対戦相手の拳が顔面に入る。

「……はぁ。集中に欠けていますね。そこをいくと、良いですよ、クルス」

「ありがとうございます!」

 この拳闘術は唯一クルスが褒めてもらえる講義であった。騎士科の皆が驚くほどの卓越した受けの技術。そう、剣と違い拳は学校側による制限を受けていない。受けに寄った構えをしていても許されるのだ。

 ならば、ここでならクルスは本領を発揮できる。

 徹底した受け。相手の拳を包み込むように掌で受ける。柔らかく、ここしかないタイミングで。剣でやりたかったことがこちらであれば出来るのだ。

 その様、まさに水の如し。

「彼の見る技術はイールファス以上です。広く視野を保ち、相手の動きの機微を読み取る。理想的な後の先。受け手も中々に巧みです」

 イールファス以上、三学年において、いや、アスガルドにおいてこれ以上ない誉め言葉である。上位勢の顔色が変わる。ディンとデリングも真面目になった。

「惜しむらくは攻め手が少ないことですね。対戦相手、私が代わりましょう」

「え、あの、私、もっとできます! まだ攻め切れてないだけで」

「彼が間違えるまで、貴女の拳は届きません」

 騎士科でも中位の女子が歯を食いしばりながらバルバラと入れ替わる。落ちこぼれに劣る事実、それが彼女のプライドを粉砕していた。

「私が攻めるので、受けなさい」

 そう言って構えたバルバラの圧は、この場全員を気圧すものであった。

「おいおい、殺す気か、バルバラ先生はよぉ」

 ディンは濃密な気配に一歩、後退してしまう。

 実際に、バルバラの踏み込みの鋭さは尋常ならざるものであった。腹の底に響く重低音、そこから放たれる彼女の身体は矢のようにクルスへと向かう。

 クルスもまた背中に嫌な汗をかきながら――

「ぐ、お!?」

 必死に受け始めた。死なないように全力で、しのぐ。

「……嘘だろ、なんで、あいつ、あんなの捌けるんだ?」

 一撃一撃が重く、受けるクルスを破壊しかねない拳の嵐。その渦中にいながらも生存し続けるクルスを見て、騎士科の生徒たちが驚き、理解に苦しむ。

「さあ、もっと速くなりますよ」

 バルバラのハンドスピードが増す。さしものクルスも被弾し始める。

「受けきれますか? 受け潰せますか?」

 たった一つの間違いすら許されぬ死の領域。クルスの脳内にはすでにここが学校である意識はない。ただ拳だけが、死をまとう思い拳だけが見えていた。

「答えは出来ない、です」

 轟、クルスが間違え、死を覚悟したと同時に鼻先でバルバラの拳が停止していた。

 風圧で髪の毛が跳ね上がる。

「人間は間違える生き物です。私たちはそれを前提に戦いに臨まねばなりません。早期決着、そのためには受け攻めどちらも出来ねばならない」

 へたりこむクルスを見下ろすバルバラは微笑んでいた。

「クルス・リンザール。まずは普遍的な攻めの技術を修めなさい。その上で受けを磨き、カウンター主体で戦えばイイ線いきますよ。拳闘士であれば私の伝手でどこへでも紹介してあげます。まあ、騎士を目指す貴方には不要でしょうが」

 辛口な評価だと言われているバルバラにとっては最上級の誉め言葉。

 それがクルスに向けられた事実に上位より中位、下位のグループが焦りを見せる。

「眼、ですね。実に面白い」

 拳闘の講義と剣闘の講義、基本的にはどちらも序列はほとんど変わらない。剣で強い者は拳でも強いものである。だが、クルスは明らかに拳の方が強い。拳と剣で戦い方が違い過ぎる。その奇妙さに彼らはようやく思いだした。

 彼が特別な三枠目である、ことを。

「やっぱあいつ、受けだよな」

「それにしても特化し過ぎだ。攻めが無ければ怖くはない」

「なら、その攻めを覚えたらどうよ?」

「……俺が負けることは絶対にない。あの男相手であれば、なおさらだ」

「なにムキになってんだよ、デリング」

「煩い!」

 倶楽部ヴァルハラに入りたいアピールを幼馴染であるフレイヤにし続けていた男である。当然、彼女の推薦でヴァルハラに入ったクルスは目の敵であろう。しかも、この二年間はほぼ一緒に過ごしていた放課後の時間まで奪われたのだ。

 クルスはデリングにとって許し難し、怨敵と成りつつあった。

 学年三位、まあまあ小さい男である。


     ○


 ウル学園長を上座として、ぐるりとアスガルドの教師陣が居並ぶ。

 時は第十中月、新学期が始まりひと月と半分、新入生も含めて一通り騎士科の教師陣が現状の評価を固めたところであった。

「――四学年は基準こそ満たしているものの、突出した者はおらず次回の対抗戦を考えると頭が痛いです。平均は悪くないのですが」

「五学年も同じですよ。ログレス、レムリアだけではなく、新興のマグ・メルなどに優秀な学生が流れています。特にメガラニカのような下品、失礼、金にものを言わせたスカウティングによって各校相当力をつけており、苦しい状況が続きますね」

 アスガルドは名門であるが、御三家の三番目という微妙なポジションでもあった。トップを目指す者はログレスに流れ、トップと戦いたい反骨心を持つ者は二番手のレムリアや設備の充実した新興勢力に流れている。

 あえてアスガルド、という者は年々減って来ていた。

「そういう意味で三学年は素晴らしいですね。アスガルドの名門貴族ヴァナディース家とナルヴィ家に、ログレスの名門クレンツェ家、加えて天才イールファス君がいる。テュール教頭の世代以降、久方ぶりの黄金世代ですな」

「上位は彼らに引っ張られ相当レベル高いですよ。この学年は対抗戦、優勝も狙えると思います。まあ、ログレスにはソロン、レムリアにはノアがいますが」

「組み合わせ次第で夢を見れるだけ今のアスガルドとしては上々でしょう」

 毎年一度、ミズガルズ中の騎士学校(五学年)が集い覇を競う対抗戦。ここ十年、一度としてアスガルドは優勝していなかった。それどころかここ二年は組み合わせの不運もあり、ベスト八すら辿り着いていない。

 卒業生からの厳しい言葉も年々強くなっている。

「ただ、この三学年。平均を取ると決して高くありません」

 若くして教頭という立場のテュールは苦言を、現実に突き付けた。

「上位が優秀なのに、ですか?」

「ええ。上位が優秀過ぎるがために、中位、下位のモチベーションが低い傾向にあります。正直、対抗戦のメンバーもほぼ固定ですから」

 対抗戦は騎士科の学生にとって夢の舞台である。学校の代表として晴れ舞台に立つ、という誇りある立場、というのもあるが、最大の理由は就職に超有利、という点である。それなりに名の通った学校の代表なら、よほどの醜態をさらさぬ限り団入りは確実となるし、世界中に自らをアピールする少ない機会でもある。

 その舞台を欲するがために下の学校の転校し代表の座を得ようとする学生がいるほど、そこは騎士学校の学生にとって夢と実益のつまった場所なのだ。

 だからこそ、上位陣が鉄板過ぎると頑張る意義を見出せなくなってしまう学生もいる。そして、学校の価値とはそういった代表外の学生の進路、と言っても過言ではないのだ。代表に選ばれるような学生は黙っていても上の騎士団に入る。そうではない学生をどうねじ込むか、その力があるか、ブランドがあるか、それが学校に求められること。

 そういう意味では期待の三学年、決して良い状況ではない。

「そのためのクルス君、であろう?」

 ウル学園長の一言。しかし、三学年の剣闘を担当する教師は首を振った。

「倶楽部ヴァルハラに入ってからかなり良くはなりました。が、依然として基準には達しておらず、下を奮起させる起爆剤には足りていません。苦しいです」

「文学も厳しいですね。最低限の読み書きは出来ますが、当たり前に知っておくべき知識や語句が欠如しています。ここから進級の基準に引き上げるのは困難です」

「算術は、そこまでではありません。基礎はきっちりしています。応用に至る知識が欠如しているだけで、努力次第で充分可能性はあります。まあ、進級の可能性がある、というだけで奨学金を貸し与えるほどの学生とは思いませんが」

「歴史、地理、厳しいかと」

「魔導学、論外」

 各担当教諭からの厳しい言葉が連なる。

「ボロクソであるなぁ」

 引っ張ってきたウルは苦笑するしかない。

「拳闘は見込みあります。攻めに難あれど、受けに関しては特筆したものがあるかと。それが何故、剣に活かされていないのか甚だ疑問ではありますが」

 先に行われた会議では、講師陣は招かれていなかった。だから、彼女は知らないのだ。クルスのフォームが矯正されている事実を。あまり外部に漏らしたくない話ともリンクしているため、外の人間には伝えられないのだ。

「ほう、それはよい話であるな」

「私は疑問を呈しているのですが」

「……てへ」

 バルバラの探るような視線から、ひょいと眼をそらしウルは口笛を吹く。

「どちらにせよ、完全未就学ということであれば特別な対応が必要なのではありませんか? 何の手も打たない学校はアスガルドくらいでしょう。補習をするとか、未就学用のカリキュラムを当てるとか、色々やりようがあると思いますが」

「バルバラ先生、彼一人にそれほど労力は割けないかと」

 剣の実技担当の教師が口を挟むも、

「ならば、未就学の学生など採るべきではないと思います。原石を研磨できぬ環境であれば、誰にとっても不幸ではありませんか?」

 一蹴。本当のことを言えぬ以上、黙り込むしかない。

「それはこの場の皆がそう思っています」

 暗にクルス・リンザールを取ったのは間違いだと統括教頭は語る。客員講師であるバルバラは話にならぬとばかりに口をつぐんだ。この保守的で閉鎖的な体質がアスガルドの癌である。優秀な学生が取られてしまうのも当然の話。

「いつまで僕、二流と三流の会話聞いとらんとあかんのや?」

 そんな中――

「クロイツェル」

 テュールの制止も意にも介さず、客員講師レフ・クロイツェルが口を開いた。

「特別扱いは要らん。カスが勘違いするだけや。たかがカス学生レベル、丁度ええ負荷やろ。むしろ、倶楽部を取り上げたってもええけどな。僕なら、そうする。必死さが足りんわ。甘えは腐らすで、人間を」

 アスガルドを対抗戦優勝に導いた伝説の学生であり、ユニオン騎士団という頂点の騎士団に入団し、副隊長にまで至った男の言葉。

 過激であっても異を唱えるには覚悟がいる。

「厳しさだけでは人は育ちません」

 されど、そのようなこと知ったことではないとバルバラが噛みつく。

「バルバラァ。自分、武人としては一流やけど、教師としては二流やなァ。なんで自分がやってきたことを強いれんのや? 死に物狂いで、血反吐まき散らかして、生と死の隣り合わせでしか積めんもんがあるやろうが。それをわかっとる自分が、それをカスどもに強いれんのはただの怠慢ちゃうんかボケェ」

「それが出来るのは一握りです」

「だから負荷かけて選別せえ言うとるんや。一握り、をなァ」

「……まさか」

 バルバラは何かに思い至り、ウルとテュールへと目を向ける。ばつの悪そうな顔が、バルバラの察しが正解であると告げていた。

「クロイツェル、君には四、五学年の上級クラスを見てもらっている。彼らは君の眼から見てどうだ? モノになる可能性は――」

「ゼロや、テュール」

 バッサリと言い切るクロイツェルにテュールは苦笑する。

「言い方を変えよう。彼らを国立の、出来れば上位の騎士団に入れることが出来るか?」

「そら余裕やろ。お仕事、やからなァ。最低限はこなしたるわ。僕からすると二流の騎士団に入ってどうすんの? って感じやけど」

「私は上位の、と言ったが?」

「ユニオン騎士団が一流、それ以外は二流以下や。のお、元二流騎士団団長君」

「……なら、二流で構わないよ。そこへの実績が一番重要だ。ユニオン騎士団は良くも悪くも圧倒的過ぎるからね」

「あほくさ」

 挑発に乗る様子もないテュールに興味を失い、クロイツェルは口を閉ざす。

 沈黙が場を支配したところで、

「では、年末に向け皆、学生諸君のお尻を叩くように。六学年の担当は上手く枠を振り分け、独力で入団を勝ち取れる学生には上手く入団試験へ誘導するよう指導願う。このご時世、どれだけ安定した騎士団への実績を作るかが重要ゆえにの」

 ウル学園長が皆に発破をかけた。この平和の時代、続けば続くほど騎士の枠は狭く険しいものとなっていくだろう。そんな中、生き延びるには目に見えるモノ、就職実績が重要になってくるのだ。

 それをどうやって効率的に稼ぐか、教師こそ心を砕かねばならない。

「今こそ一丸となって攻め勝つときである!」

 アスガルドというブランド、摩耗し続けるそれを守らねば彼らも食い扶持を失ってしまう。生き残りをかけた戦いは、とうの昔から熾烈を極めているのだから。

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