第12話 パワーズ オブ ラブ



 男には決断しなければいけない時がある。

 そう、今まさにその時だ。



 この淡い赤ローズのグロスか

 そちらの情熱的な赤のルージュか・・・


 やはり女性は妖艶な唇を武器に甘い吐息で男をとろかせるもの・・・。

 いや、こちらの情熱的な色で男を惑わす、官能的な魔性の赤も捨てがたい・・・!



 どちらにするか!




 眉間にしわを寄せて真剣に悩むパワーズは商品棚に向かって、ぶつぶつと独り言を言っている。

 そのパワーズの両手には、口紅とグロスのかわいらしい容器が握られている。

 彼は、どちらかを選ぶのにずっとこの化粧品コーナーで、ジャッジを下すべく覇気を放っていた。


 そんな事やってて、いいかどうかは別として。



 化粧コーナーの真ん中で陣取る超の付くイケメンに、周りの客は見たいやら話しかけたいやら。

しかし、引いてしまっていて、距離を措いて輪が出来ていた。

 店員が声を掛けようとするが、あまりのキモさに近づけない。

 顔は超が付くほど良いのに残念だ。



 そんな周囲の視線も気にせず、尚も続いている。


 女性とは、守るべき対象であって、決して艶めかしいとか情欲的な目では見てはいけない。

 あの顔の大きさの割にクリっとした大きな目に、少し薄い色だけど長くて存在感のある睫毛してて、整った鼻に丸い頬、細くて手折れそうな首にかわいらしい顎にぷっくりとして小さな唇が愛おしいいいい。


 あの愛おしい唇には、どちらが適切なのか!


 このグロスを付けた時の彼女のつやつやした唇は、甘い誘惑ですべてのものを溶かす、妖の吐息の様であろう。


 それは、あふれ出る聖なる泉なのかぁあああっ。

 それとも、罪なのかぁああああっ。

 かぁああああっ。


 いや。しかし。


 そうではない。違う道もあろう。


 官能的な情熱におぼれて魔性を目覚めさせるなど、この神の使いたる天使にあるまじき行為。

 罪だ!

 実にけしからん。

 あの唇にこのルージュ・・・。うわぁあああああっ。

 そんなことがあってよいのかぁあ。



 パワーズは膝から崩れ落ち、両手を組み祈る。


 神よ。

 我を導き給え。

 

 パワーズから神の聖なる光が放たれ、衝撃が響く。

 ゴーーン

 



 地震速報が鳴り出し、震度3の情報が流れ出した。




 わが天の父なる神よ!


 このグロスか

 ルージュか


 我をお導き下さい。




 <神>


 ん? んん~。

 どっちでもいいよ~


 え?あかんの?

 じゃあ、右のやつ~


 じゃっ。




 <ガブリエル>


 パワーズさん。始末書。

 解かってますよね。


 今日中ね。





 あ。しまった。

「・・・。すみません。お騒がせしました。」

 周囲の視線が冷たい。

「コレ、お願いします。」

 とグロスを店員に渡す。


 店員は終始、無言でレジをする。

「ありがとうございました・・・。」


 周囲の全員がパワーズの去っていくのを見守っていた。

 店員はホッとした。

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神の犬 もも吉 @momokitisan

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