第149話 本当は近くにいたり
おつぼねぷりん:プリンマニアさんは優しいですよ。私はその状態で、どうしたら優しくできるか、みたいな言葉出ないですもん
purinmania:優しい? そうは思えないけど
おつぼねぷりんに、ついぼやいてしまう。
おつぼねぷりん:嫉妬はしてるかもしれないけど。プリンマニアさん、相手の話聞こうとしたし、心配もしたし、最大限のことはしたんでしょう。目に浮かぶ気がしますよ
purinmania:彼女にしちゃってる言動とか、しそうになってることとか。ほんと暑苦しい感じですよ。このままじゃ本当に避けられそう
おつぼねぷりん:優しくしようと思ってるのは、伝わるんじゃないのかな……どうかなぁ。ルームメイトさんは愛情に気づいてないかもしれないけど、優しくしたいとか。そういう温かい気持ちがあったこと自体は、価値のあることだと思いますけど
おつぼねぷりんがわたしを慰めにかかっている。
温かい気持ち、か。そう言えればいいのだが、程遠いような気がする。
慰められたところで、現実に抱く感情が変わるわけでもない。温かいというよりは本当に暑苦しく泥臭い感情なのだが……。実際に自分がぶつけられてしまったら、いくらおつぼねぷりんでも鬱陶しいだろう。場合によってはわたしだって鬱陶しいと感じる。それを、温かい気持ち、と言い換えられても、無理やり感は否めない。
気を遣わせてしまって悪いな、という気持ちとともに、急にわたしはおつぼねぷりんを詰りたいような気分にかられた。
purinmania:同じことされたら、おつぼねぷりんさんだって、嫌がるくせに
おつぼねぷりんの返信は、いつもより遅れた。
感じ取ったんだろう、わたしの攻撃的な書き方のせいで。――簡単に言うなと詰りたい気持ちを。
おつぼねぷりん:嫌がる?
purinmania:嫌がるでしょう
おつぼねぷりん:そんなのは、されてみないとわからない
purinmania:されたら嫌がるよ
書き捨てるようにした言葉への返信は、意外と速かった。
おつぼねぷりん:私がまだ嫌がってもいないのに、勝手に私の行動を予測して、当たらないでください
図星をついたことを書かれた。おつぼねぷりん、けっこうはっきり言うな。勝手に予測して……おつぼねぷりんに当たっている。確かにその通りだった。
おつぼねぷりん:腹がたってきたぞ ヽ(`Д´#)ノ ムキー!!
――怒ってる顔文字が来た。顔文字で緩和されてはいるが、きっちり指摘してきている。これは多分、わりと本当に不快にさせた。謝らないといけない。
purinmania:ごめんなさい。本当だ。おつぼねぷりんさんに、当たってた
おつぼねぷりん:щ(゚ロ゚щ) カモ-ンщ(゚ロ゚щ) カモ-ンщ(゚ロ゚щ)
威嚇して挑発するような顔文字まで……どっから引っ張り出してきたんだこんなもの。
purinmania:カモーンて……
おつぼねぷりん:勝負はうけてたつ! 私の胸でお泣きなさい
――私の胸でお泣きなさい。
カモーンって、挑発じゃなくて、そっちか……?
purinmania:なんですか、そのキャラ
私の胸でお泣きなさい。そうふざけた口調で書かれて、意外なことに、自分の目が潤みかけていることに気が付いた。そうか――わたしは、本当に当たっているんだ。泣きそうな気分で。おつぼねぷりんは、わたしが限界に来ていることをわかってるんだ。
ものすごく遠いはずのネット上の相手なのに、間違いなくおつぼねぷりんはわたしの気持ちに一番近いところにいた。そして、――物理的にも、本当はそう遠くない場所にいる。同じ最寄り駅ということは下手したら同じ町内だ。「私の胸で」お泣きなさい、と書かれてしまったせいで、その表現はまるでハグでもされるかのように感じられ、もっと近くで交流できたら、触れられるぐらいに近くで話せたらいいのに、という欲求が芽を出した。
この人と、焼き鳥屋に実際に行こうとしたんだ。
もしかしたらそれは、愚痴を聞いて受け止めてもらいたいという甘えなのかもしれなかったが――おつぼねぷりんの優しさに直接触れてみたいような気分になっていた。要は、おつぼねぷりんの真心のこもった比喩表現に、脳が、バグった。
purinmania:まいったな
わたしはそのままおつぼねぷりんに伝えた。
おつぼねぷりん:まいった?
purinmania:おつぼねぷりんさんと、この前、会おうとしたんだなって
おつぼねぷりん:うん。……うん?
purinmania:おつぼねぷりんさんと、そういえば焼き鳥屋に実際に行こうとしたんだなって思ったら、ちょっと。変な気分になった
おつぼねぷりん:変な気分?
purinmania:おつぼねぷりんさんが、優しいでしょう。なんていうか、ドキドキして、甘えたくなった。おつぼねぷりんさんに
――何を言っているんだろう。
甘えたい、なんて人に伝えるのは初めてで、自分が本音を言ってしまったのだと気づく。そして、書いてしまったせいで、潤んだ目からぽたぽたと涙がこぼれ始めた。
甘えたい? わたしが? それも、会った事もないはずのおつぼねぷりんに。
ものすごく弱く柔らかい部分を晒してしまった。初めての感覚と、おつぼねぷりんがどう反応してくるかわからない緊張で、気が付くと、ときめきに近かったはずの心臓の泡立つような動きが、ドキドキと不安な音を打ち始めている。
しまった。これ、言わないほうがいいやつだったんじゃないか――?
バグってる――バグってる。止まれ。おかしいこと言ってるぞ!
おつぼねぷりんの反応が見えなくて、悪い想像ばかりしてしまう。
purinmania:引きました?
おつぼねぷりん:引く? なんでですか?
purinmania:なんでって
甘えたい、はともかく、ドキドキしてるとまで書いてしまった。これじゃ、まるで、好きな人とうまく行かないからあなたを意識し始めてますと言っているように聞こえる。失礼すぎる。意識は――前から、しているといえば、しているのだが。
purinmania:今、変なこと口走りましたよね。すみません
おつぼねぷりん:限界なんですよ。プリンマニアさん
purinmania:おつぼねぷりんさんを取って食うつもりはないので
おつぼねぷりん:わかってますって
おつぼねぷりん:大丈夫ですよ
わたしが、不安になっていることがわかるのだろうか。おつぼねぷりんが、わたしを安心させようとするかのように連投する。
おつぼねぷりん:大丈夫。よしよし
purinmania:よしよしきた……
おつぼねぷりん:よしよし
なぜ、おつぼねぷりんは、こうもわたしを甘やかせてくれるのだろう。優しいのは、おつぼねぷりんだ。
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