第141話 会いたくなっていたり
……ふう。
プリンマニアとのチャットを終えてから、ベッドに大の字になって寝転ぶと、ぼうっと天井を見つめた。
――そんな恐ろしいことするぐらいなら、おつぼねぷりんさんと漫画共有しますよ。
プリンマニアが、本や漫画を共有したいと思える相手は、ルームメイトよりも自分のほうなのだ。好きな相手からどんな反応があるのかが怖いのだろうから、それは特別なことじゃない。それをほんのちょっとだけ、ルームメイトさんとの間には無い絆のようにまで感じてしまった。バカか私は。ちょっとバランスを崩しかけているのだと思う。
――おつぼねぷりんさんとほど深く話せたこともないし。
私も。私もだ。
手元に当たった枕を胸の前に持ってきて、手のひらでクッション部分を揉みほぐす。軽い恥ずかしさと自己嫌悪のようなものを霧消させたくて。
「米が尽きるまで」の話をしようと思った時、急に顔が熱くなって、自覚した。
米百合、あれは、私が内心、そういう恋愛ができたらいいのに、という憧れのようなものがあって、そのせいで心にヒットしたのだった。自分のちょっとした妄想の癖のようなもの。
プリンで妄想するより、米で妄想するほうが、私には、数段エモかったのだ。
プリンマニアとだったら、会って喋りたいという感情がわいてきて。
あああ。馬鹿。馬鹿。馬鹿。
「あんな会話のあとじゃな……」
まぶたにプリンがどうとか、お仕置きがどうとか。冗談でも、ちょっと悪乗りしすぎた。あんな下ネタみたいな会話しなければよかった。
向こうが振って来たから仕方がないが、あの会話の後に会おうとすると、なんだかそんな流れを期待して会おうとしてる人みたいだ。
もちろん、プリンマニアはそんな風には思わないでいてくれるだろう。
けど、なにも、あの会話の後に会おうとする事はないだろ……! もう少しまともな会話だってすることあるんだから。あとちょっとのところで、言い出せなかった。流れが悪すぎる。
「あああああ……」
なんだよ。結局、私はプリンマニアのこと、意識してるんじゃないか。会ったこともないのに。そうでなければ、自分でも「流れが」とか思いもしないだろ。
会ってみたい。プリンマニアと、会ってみたい。
どんな人なんだろう。
会ってみたいが……怖い。
学校や会社で毎日顔を合わせる相手なら、思ったよりくだらんやつ、と思っても、どうにかやっていく。芽生と私がそれだ。お互い、何だコイツ! と思う事が多いはずだけれど、一緒にいるから何とか仲直りしながらやっていく。
学校や職場で同じグループにいるのなら、プリンマニアは、それなりに付き合ってくれる人ではあるように思う。
でも、プリンマニアとは、相手に興味を失っても集まって自然と共有するような、「居場所の重なり」が無い。ネットにしか、無い。
一度会って「もう会う価値なし」とでも思われたら、自然消滅するかのように、チャットのやりとりも終わってしまったりしないか。
彼女は、いわば私の、「文章で飾った推敲された人格」を、友達として好きだと言ってくれている。リアルで話すと、自分の言葉への「推敲」もできない。決定的に私の考えの浅さや、いろいろな事が彼女にはわかってしまうのだろう。
私の書いた小説を読んで、自己解釈して共感して過大評価しているようだし。
何も考えずに書いてしまった、と正直に言っているはずだが、たぶん謙遜としてしか受け取られていない。適当すぎるぐらい適当なのに。
間違った過大評価なら、崩れてくれたほうがいい。いいだろ!
それに、どうしてだろう。容姿的な部分も、気になり始めてしまっていた。
プリンマニアが私の性格を美化しているみたいに、私も多分、プリンマニアを美化している。それも、性格だけではなくて、姿までぼんやりと想像してしまっている。
勝手に想像しているプリンマニアは、視線の使い方や顔の印象も優しそうで、かっこいい。でもそれは私の勝手な想像だ。
そして、たぶん、向こうもそれなりに、こちらのイメージを持っているだろう。
私の顔がどうだろうと、きっとプリンマニアには大したことじゃない。彼女が好きなのはルームメイトさんだ。ネットで知り合った友達の顔をそこまで気にする人間ではないだろう。それなのにこんなに気にしてしまうのは、プリンマニアを実際に目の前にしたら、好きになってしまうかもしれない、とどこかで思っているからだろうか。私の顔を見たら、プリンマニアはどんな感想を抱くんだろう。
外見的にも内面的にも、会ってみたら思ってたのと違う……と思われるくらいなら。そんな危険を冒すぐらいなら、このまま文章だけでやりとりしていたほうが、有意義なのではないかとさえ思う。それだけでも充分に私には精神的な学びが多いし。そう思うのだが……。
私の指が、スマートフォンを引き寄せ、チャットに文字を入れた。
おつぼねぷりん:プリンマニアさんに会いたいって思う前に、さくっと会っておけばよかった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます