第140話 仲直りの報告を受けたり
おつぼねぷりん:仲直りしました
purinmania:したかって、わたしに聞いてます?
おつぼねぷりん:私が、ルームメイトと
purinmania:喧嘩してたんですか
おつぼねぷりん:してました
ハテナの付け忘れかと思っていたら、どうやら仲直りしたのは、おつぼねぷりんの側だったらしい。っていうか、喧嘩してたのか。初耳だ。
おつぼねぷりん:同じタイミングでトラブってるなとは思ったけど、言ってなかったですね
わたしが相談したから、言いそびれたのか。それにしても、つくづくおつぼねぷりんとは、状況の同期が激しい。
purinmania:わたしもとりあえず仲直りできたみたいです
おつぼねぷりん:よかった
よかったと言っていいのかは疑問だ。表面をつくろっただけだ。つくろいが、ズボンに当てた厚手のツギのように強固ならまだいいのだろうが、無理やり両側を引っぱってきて細い糸で止めただけの状態に近い。わたしはほとんど破れかけの布みたいなものだ。
表面もつくろえないのでは同居生活も成り立たないから、ぎりぎりそれができただけでもマシなのは確かだが、また同じ事があればその表面上のつくろいも剥がれてしまう気がする。
purinmania:けっこうシンクロしてますよね、わたしたち。隣の部屋にいるの、おつぼねぷりんさんなんじゃないか、って思った事もあるぐらいですし
前に一度思ったことを、書く。
おつぼねぷりん:あるのか
purinmania:ありますよ
実際、共通点が多い。環境や外見に縛られない分、リアルよりも共通の趣味の相手や気の合う相手を見つけやすい――ネットでの出会いというのは、そういうものなのかもしれない。
おつぼねぷりん:私も思ったことあります(笑)でも性格だいぶ違うからなぁ
purinmania:違います?
おつぼねぷりん:彼女かなり潔癖症だし。プリンマニアさんはド変★態だし
purinmania:ぜんぜん伏せ字になってないんですが?
おつぼねぷりん:ごめんなさい。ド変★態な気がする? し?
purinmania:手加減を加えてるだけで、内容ぜんぜん変わってないでしょ!
そりゃわたしは、あおいの唇にプリンを流し込んでは「ふ~~!」ってなってるド変態だ。
でも、いいたい。わたしが共感するような小説書いている時点で、アナタもかなりしっかりとしたド変態ですよ? と。
purinmania:これでおつぼねぷりんさんと付き合ってたりしたら、ブーメラン刺さってますよって言ってお仕置き実行する案件ですけどね
おつぼねぷりん:(´艸`*)まぶたにプリン垂らすの? プリンマニアさんのお仕置きはヤバそう。恋人同士でもどうかと……w
purinmania:まぶたに垂らすくらいなら、恋人じゃなくてもいいか。冷たいのと、できたて熱々プリン、どちらかを選んでもらえます?
おつぼねぷりん:ひー! 変★態でも、プリンマニア様は素敵です! 優しいし!
おつぼねぷりんが、焦ってのフォローに見せかけた茶々を入れてくる。
一度、それ系のエロ妄想をチャットに書いてしまっただけに、想像させてしまったのかもしれない。そこまで無理なことをするわけはないが、つい悪乗りしたくなる。
purinmania:まぶたにピー(自主規制)、そのあとさらにお仕置きでピー。おつぼねpリンさんがピーピー言っても余裕でピー♪
おつぼねぷりん:ピィィィ( ;∀;)ィエエエ!
ノリがいい……。ちょっと笑ってしまった。今日はこういう、くだらない会話に癒しを感じる。
おつぼねぷりん:コレで同一人物は無理がありすぎるな……
purinmania:そう?
おつぼねぷりんの「コレ」扱いが、今日はなんだか気持ちがいい。
おつぼねぷりん:混ぜるとどうなると思います?
purinmania:お仕置きがヤバそうな、素敵で優しい、潔癖症のド変★態になりますね
ひどいキャラだ――。わたしは想像して笑ってしまった。
おつぼねぷりん:彼女に「体にプリンを垂らしてどうこう」みたいな事言ったら卒倒しそうですよ。プリンにあやまれとか言われそう。ないない
purinmania:わたしのルームメイトも、おつぼねぷりんさんほど想像ぶっとんでないし、同一人物はなさそうw ここまで変★態でもない? 気がする? し?
おつぼねぷりん:まじでブーメラン戻って来たし!
おつぼねぷりんの膨れた顔が想像できるようで、ちょっと口元が緩んでしまう。この人、やっぱりなんだか、かわいい。
purinmania:でも、だからこそおつぼねぷりんさんと話すのがいいんですよ。ルームメイトはね、わたしは話すだけで嬉しいけど、内容はそこまで突っ込んだことは話さないし、百合とかもよくわからないタイプの子だしね。おつぼねぷりんさんとほど深く話せたこともないし
おつぼねぷりん:そっか。なにか渡してみたら
purinmania:なにかって
おつぼねぷりん:良さそうな百合漫画とか
purinmania:怖い怖い怖い
おつぼねぷりん:受け付けなさそう?
purinmania:いや、わからないけど。そんな恐ろしいことするぐらいなら、おつぼねぷりんさんと漫画共有しますよ。家近いしね
そうだ。家が近いし――、あおいとたまに行くファミレスなんかで待ち合わせして、漫画の貸し借りとかしてもおかしくない。本当は。せっかくだから会うなら横浜で例のプリンのお店でイートインしてみたい気はあるが。
まぁ、おつぼねぷりんさんは、まだ会ってはくれないだろう。
自分からその話を出すと、「まだ会いたくないです」とぴしゃりと予防線を張られてしまいそうで、わたしは注意深く話をそらそうとした。
おつぼねぷりん:私もルームメイトに漫画貸すより、プリンマニアさんに貸したい。感想とか聞きたいし
どきん、と心臓が鳴った。
purinmania:読む本の好みとか、合わないようなこと言ってましたしね
おつぼねぷりんと、少しずつ距離が近くなれたら、という気持ちは、ずっと心の中にある。この心臓の音が、自分が気になっている世界を仲間と話せるかもしれない、という期待のせいなのかはよくわからない。
おつぼねぷりん:そういえば、米百合って読みました?
purinmania:アメリカが舞台ですか?
おつぼねぷりん:日本です。米の食べ比べをしながら、買った米が米びつから尽きるまでずっとその地方のものをなるべく食べて旅行もするっていう、同居人同士の百合が出てて
purinmania:ああ、気にはなってたけど、米じゃなくてプリンだったら即買いしてたかも? 読みました? どうでした?
おつぼねぷりん:最後がかなりエモかった。米が尽きるまで……っていうのがもう。同居人の事が好きなプリンマニアさんに、お勧めしようと思ってたんです
貸しましょうか――。
このときに、おつぼねぷりんさんから振ってきていたら、わたしは絶対に乗っていただろう。
おつぼねぷりんは、言い出さなかった。言い出さないということは、まだだということだ。
おつぼねぷりん:当たり前みたいに一緒の時間に同じものを食べられるのって、しあわせな事なんだなって
しばらく、最近読んだものなどの話をして、勧められて図書館で借りた本の話もして、ひとしきり話に花が咲いた後、わたしはこの時間に満足した。軽いノリでの会話ができたことも、おつぼねぷりんさんの真剣な感想を聞けたことも。とても大切な時間に感じられた。
結局、「実際に会って貸し借りをしよう」と言い出すもう一人の自分は、頭の片隅においたままにした。
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