第121話 他の人と出かけたり
通知が入って、私は携帯を二度見した。
皆堂:暇です? 家にいますよね。先輩の家の近くにいます。ストーカーです。なんつって
面食らったが、皆堂にそのままLIMEで電話をかけた。
しらすの話が出た日に連絡先の交換はしてあったが、たいしてやり取りしていなかった。
あの一件があってから、一週間は皆堂に話しかけていなかったし、課長や小林の姿が一緒に見えると三人から少し距離を置いてしまっていた。
「なに、どうしたの? ってかなんで家知ってるの?」
恐る恐る聞く。
「冗談ですよ。家は知らないです。最寄り駅聞いたことあるから、近いかなって。マジで怖がるの、傷つくからやめてくれません?」
皆堂は笑った。
「自分でストーカーですって言ったくせに。しかも家にいますよねってなに」
「インドア派だからどうせ家にいるだろと思っただけですよ。暇なら、ちょっと話しません?」
時計を見る。夜までにはだいぶ時間がある。百合小説の更新以外、特にやることもない。
「ほんと、たまたまなんですけど。場所教えてくれたらソコ行くんで」
「三十分待って」
私はそう言って自宅の場所を教え、ボサボサの髪をとかして部屋着から簡単な服に着替えると、軽くメイクをした。
リビングでは今日も芽生がプリンを作ろうとしているようだ。卵を割っている。週末は平日の夜ごはんの下準備やら冷凍作業で、いつも何かしら料理している。
「でかけんの?」
「下に知り合いがきてる」
適当なサンダルを履いておりていく。皆堂がマンション前の駐車場にバイクで入ってきていた。
「急に、びっくりだよ」
「お疲れ様でっす」
「お疲れ様。……バイクって、これ?」
「スクーター馬鹿にする気ですか!」
皆堂は勢いよく言った。腹から声出すから気合が入るんだな。いつも通り元気そうだ。怖い。
「馬鹿になんてしてないって。スクーターなの? まずそこから知らないから」
スクーター……にしてはでかいような? てっきりもっと前傾姿勢で乗るようなものを想像していた。私は皆堂の「スクーター」とやらをまじまじと見つめた。私の考えるスクーターって、もっとこう、小さくてかわいい感じなんだけど。
「ビッグスクーターですよ。荷物入れたいし、こういうのが好きなんです」
「ふうん。便利?」
皆堂は私の体を上から下まで眺めた。
「先輩には、ビッグじゃないスクーターのほうがいいかもね。これに乗るなら厚底の靴とか履いたほうが良さそう」
「私は自転車でいいけど」
「気持ちいいですけどね。後ろ乗ります?」
いいの? といって近づくと、皆堂は首を振った。
「二人乗りでちょっと走ってみるってことですよ。ヘルメットもういっこあるから、サンダルじゃないのに履き替えてきてください。ブーツとか足首まであるやつで、ズボン履いて、厚めの長袖ジャケット、革があれば革がいいですけど、何か大きめなの持ってきて。あと布じゃない手袋」
「いやそこまでしなく――」
「ほい、取ってくる!」
「うぇぇ、なんか怖いな」
「ほい、さっさと行く!」
先輩に対する言葉遣いじゃないが、もともと皆堂はこういうヤツだ。会社以外でまで文句を言う気はない。
一度部屋に戻って、手袋を探してブーツを履いて皆堂のもとへ戻る。皆堂はせっかく着たジャケットを脱げと言った。
「ジャケット。貸してください」
素直に渡すと、皆堂は自分の着ていたジャケットを脱いで私に投げた。
「借ります。先輩そっち着て」
「なんで?」
「そっち、プロテクタ付いてるから」
私のジャケットに袖を通しながら言う。プロテクタ? ああ、確かに、肘や肩に、固めのクッションが入ってる。背中にもスポンジのようなものがあるようだ。
「先輩がバランス感覚悪すぎて転がったら困るしね。念の為?」
けけけ、と笑って、皆堂はチャックを上まで上げた。私がヘルメットを被ったあとにモタついているのがわかって、顎紐を締めてくれた。
「乗って」
うへぇ。どうやって乗るんだこれ。
こえーよ。皆堂より怖いかもしれない。どうしよう。
どうにかして乗る。皆堂の肩に手をかけると、その手を皆堂が腰に誘導した。
え。これで走るの!?
「ちょっと、これ、空間あく。怖い」
まだ走らないでくれ……。私は怖がりなんだ。皆堂用の背もたれらしい、シートのふくらみのせいで、ぴったりくっつききれない。転がったらどうすんだ。体勢に無理があるが、皆堂にどうにかしがみつく。
「出発! どこいこ? そういや先輩、しらす食べた?」
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