第119話 どんな姿もは見せたくなかったり
プリンマニアが送って来るチャットが見たい。ちょっとした文章が読みたい。
何か書いて、公開したら、プリンマニアは、きっと読みに来る。コメントもしてくれるかもしれない。この最新話をアップしたら、プリンマニアはコメントだけで終わりにせず、LIMEで連絡をしてきそうだ。
プリンマニアが感じられる文が読みたい。私に向けたものじゃなくていい。私にじゃなくていいんだ。何か他の人の投稿にコメントとかレビューしてないかな。
なんだろ、これ。
やりとりは……ものすごくしたいんだけど。自分からの返信は、一切できる気がしない。
今日、なにか反応されて、持ちこたえられるのかな。
私は今、怖がってる。
プリンマニアに、「どうなった?」と聞かれるのを。考えなしの幼稚なやりとりで、月影さんを窮地に追い込みかねない言動にでてしまった、と報告するのを。
優しいから、説教はしても、わざと傷つけようとはしてこない……とは思うけど。
私は、プリンマニアの反応を怖がっていた。
いつもは私を否定してくる芽生が、優しい対応をしてくれたのは、私の様子がおかしいのがわかっていたからでもある。
顔が見えない世界だ。こちらの様子を知らない分、プリンマニアは、本当に感じる事を言うだろう。基本はっきり言う人だし。意見を聞く意味があるのはこういう人間だ。
本音を話しているからこそ、否定されたら、正直……キツい。
そうか。私、プリンマニアに嫌われたくないんだ。
プリンマニアにまで否定されたら、私はどうやって「本当の」自分を保っていられるんだろう。
この期に及んで、私は、自分がしたことよりも、プリンマニアに嫌われることを気にしているというのか?
そんなに、人に認められていたいのか。こんな自分の感じ方が、今の状況を引き寄せたんじゃないのか?
小林には怒られたくない。社会人として甘いとも言われたくない。皆堂にはいい顔をしていたい。芽生には受け入れていてほしい。プリンマニアには軽蔑されたくない。
誰かに認めてもらうことを手放さない限り、着地点なんてどこにもないんじゃないのか……。
人が何を言おうと、何を思おうと、自分はこれでいいんだって胸を張っていればいいはずなのに。
周りの反応が怖いんだ。誰かがどう感じるかなんて、その人の勝手だし、私が想像しているに過ぎないのに、想像上の視線を皮膚から切り離せない。人の目に映る自分が気持ち悪ければ、自分自身のことも自分で気持ち悪く見てしまうほどに、人の目に価値観を頼っている。
もどかしい。こんな状態でプリンマニアと話したら、自分の問題なのに、また全体の問題にしてイヤな発言をしてしまうんじゃないのか?
プリンマニアには、嘘はつきたくない。ごまかしても、あの人はそういうのを見抜きそうだ。
プリンマニアに嘘をついたりごまかしたりしたところで、私は自分を好きになんてなれないだろう。
彼女と本当に対等に話すには、私には、越えないといけないものがあるような気がする。
胸を張ろうとして張れない、自分の表情筋の無理な突っ張りが、手の震えが、恥ずかしい。
プリンマニアに会いたい。
どうやったら背筋を伸ばしていられる? 自分で自分を否定しないでいるのって、どうすればいいんだっけ。わからない。どうやったらそれができる? どうしたら、自分を好きでいられるんだろう。
携帯が光り、見ると、まさに、プリンマニアからのLIMEだった。
@ purinmania:みんなプリンで元気になれたらいいですよね
通知を見て沸きあがったのは、叫びたいような嬉しさだった。プリンマニアさんだ! と言葉に出したいような。
うまく返信できない。怖い。会話を続けたくない。今は怖いけれど、待って欲しい。
プリンで元気になれたら? その通り……その通りだよ! 元気になる言葉を吐く自分でいたいのに。本当は、ぺしゃんと潰れそうな自分を、どうにか立て直したいんだ。
ああ……私はまだ、プリンマニアと、繋がっていたい。
そうですね、と、返事が打ちづらいような同意だけ返して、その日はそれ以上の言葉は打たなかった。最新話は修正も公開もせず、そっと保存のボタンだけ押した。
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