第115話 どんな姿も見ていたかったり

 最近のあおいを、わたしが一番近くで見ていて、知っている。


 不安定なあおいを心配する気持ちの中で、ゆっくりと頭を持ち上げる自負の芽がある。


 あおいはわたしを特別に思っていないかもしれない。でも、本人には見えていなくても、わたしは、少しは特別な立ち位置にいる人間なんじゃないのか。こういうあおいに接することができたのは、わたしだけなんじゃないか? そのうちあおいが、そんなことに全く気付かずにわたしから離れて行っても。


 他の人が見ることができなかった、あおいの一部を知っているのは。

 わたしだけだ。


 遠くから自分をながめている自分が、冷静になれと諭している。

 小さく芽吹き、成長した植物は、どんな生き物になるんだろう。葉の先端が蔦の先端のように吸盤になり、すがりつく蔦のように彼女に取り付き、とんでもないモンスターになりはしないか。


 あおいに早く元気になってほしい、でもどんなあおいも見ていられる人間は、わたしがいい。この一時期、この時だけ、ほんの少しの時間でもいい。あおいに一番近い、この場所を譲りたくない。

 いつか自分の手でその蔦に鋏を入れるとしてもだ。



 あおいが部屋に戻ってしまってから、「書いたり読んだり」のサイトを開く。有名どころの百合は読んでいるので、更新されている所を読んで回る。

 おつぼねぷりんの更新は無い。最後に、おつぼねぷりんのチャットを開いて、一言入れた。


@ purinmania:みんなプリンで元気になれたらいいですよね


 ペコン、とおつぼねぷりんからのレスがあった。


おつぼねぷりん:そうですね。


 あれ?


「何ですか急に」とか、そういうレスが返ってくる気がしたが、短文で「そうですね」でおしまいだった。続きもない。まぁ、確かに、「そうですね」としか返信しようのない内容なのだが。

 ちょっとルームメイトが変で……なんて話して、聞いてもらえたらいいなと思ったのだが、返信の温度感がいつもより低い。


 忙しいのかな。

 疲れているとか。

 

 返信しなくていいように、ただ笑っているだけの顔文字を入れる。その日から、だいぶ長い間、おつぼねぷりんからのチャットも、小説の更新もなかった。





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