第124話 お土産を用意したり

「いやいや」


 私は皆堂の言葉を遮った。


「シイタケとか銀杏入ってないから。甘いから」

「へぇ。ちゃんと冷やして食べてんですよね? 原材料見てます?」

「手作りだよ」


 皆堂は目を丸くした。


「意外すぎる!」


 あ、これ、私が作ってると勘違いしてる。私はあんなプリン作れないから、さっさと訂正しておかなかれば。


「ルームシェアしてる人が作るんだよ。ビョーキレベルのプリンマニアで」


 プリンマニアという言葉を使うと、必然的にもう一人も頭に浮かんでしまう。プリンマニアも自分で作ると言ってたな。芽生とプリンマニア、二人を会わせたらどうなるんだろう。気が合うんだろうか。


「洋酒でも入ってんですかね」


 皆堂はプリンの汁を掬いながら呟いた。


「聞いといたほうがいいですよ。熱くなるほど酒入ってんなら、先輩、車の運転とかヤバいすよ」

「う〜ん? 聞いとくか……」


 運転するものなんて、自転車しかないけど、まぁ、聞いておくほうがいいか……。


「そういや、皆堂さんって私の事、なんで先輩って呼ぶの?」

「なんでって?」

「他の人はそう呼んでないでしょ」

「ああ」


 皆堂は、プリンの汁とコーヒーを交互にすすった。

 ここの店のプリンは固めだ。ほんのり甘いプリンに、苦めの汁がかかっている。 

 普通のプリン以外に、おこさまプリン、ほろにがプリンというメニューもあるようだが、ほろにがというのは、これよりさらに苦いのだろうか?


 どっちが苦いだろう、と呟いたあと、皆堂は私を上目で見た。


「上に色々くっついてるんですよ」

「色々?」

「うんちゃらセンパイ的なヤツ」


 うんちゃらって何だよ……。


「うんちゃらって何だよ」


 声に出てた。


「だから、色々」


 皆堂はこちらをちらりと見たが、目が明らかにニヤニヤしている。


「回し蹴りセンパイとか、例の変なセンパイとか」


 は……?


「先輩、の前につく言葉は毎回変わりますよ。なんか、変わった反応する人がいると思って見てたから。今日はニタニタしてるなって時は「ニタつきセンパイ」とか。わかりづらいけど怒ってるなって時は「目が座ってる例のセンパイ」とか。やられながらMPだけ回復して笑ってるセンパイとか、あとほかにも」

「えええ……」


 ファンって結局、「面白がってる」ほうのファンじゃないか。

 クソ! こいつに変な仇名つけられてたのは、ココナツだけじゃなかったって事か!

「先輩」って単語になんの敬意もないだろこれ。 


「聞くんじゃなかったよ」

「まあまあ」


 そろそろ食べ終わる。飲み物が空になる前に、芽生へのお土産を店員さんに頼んだ。日が沈む前に帰り始めないと寒くなるだろう。


「保冷剤は、おつけしますか」

「お願いします」

「お持ち帰りの時間はどれくらいですか?」


 皆堂の顔をちらりと見たが、底に残ったプリンを掬うのに集中しているようだったので、時計を見て、ここまでどのくらいかかったかを計算した。

 プリン食べた時間としらす食べた時間、ええと……並んでた時間もかなりあったような。


「一時間、ええと……一時間半くらい……?」

「二時間半で」


 皆堂が小気味よく答える。なんだか、皆堂のほうが年上みたいな気がしてきた。


「並んだ時間考えたら、そんなにかかってなくない?」

「寄り道して帰るし」



※小説内のお店は、架空の店舗です。実際の店舗と間違えられる可能性があるため、前回の第123話を多少修正しました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る