第111話 言葉がたりないのに気づいたり

 なんで、あんなんなってんだろう。

 地雷踏んだのか、わたし?


 芽生に迷惑かけちゃうからね、とか……。

 なにか、会社で、誰かに迷惑をかけるようなことでもしたのかな。

 なにかトラブった?


 気になるが、これ以上聞けない。あおいに会社の話をすると、地雷を踏み抜きかねない。埋まっている地雷は一つとは限らないのだ。


 あおいを風呂場に押し出してから、冷蔵庫を開ける。

 ビタミン足りてないのかもしれない、あおいは。サラダでも適当に作ろう。消化酵素が働くような、なにか生のものと……メンタルにきてるんだろうし、ビタミンB系かな。豆腐と胡麻ならある。

 きゅうりとトマトを切って、豆腐に乗せる。上にちりめんじゃこ、胡麻、海苔をちぎって散らす。和風サラダになってしまった。シチューに合うかと言われると疑問だ。


 迷惑。


 迷惑っていうならそれこそ、このわたしが同居していることのほうが迷惑なぐらいなのに。おつぼねぷりんの「相手に迷惑だし、不毛すぎる」って言葉がぐっさりと刺さるだけのことは、わたしはしてるぞ。


 ――もう、一緒にいるの、やだ?


 風呂に入らせたはいいが、気になって仕方がない。


 嫌なわけないだろ。

 こっちのセリフだ。何を急に。あおいにしては珍しい。


 海苔を散らす手が止まる。

 あおいの言葉に、「迷惑じゃない」とか、そういった返しをまったくしていなかったことに気がついた。


 いや……しなかったけど。しなかったけどさ!


 さすがにわかってるだろ。乳液の蓋あけっぱなしにしたぐらいで、一緒にいるのまで嫌だとか、わたしが、思うはずないだろ? 


「蓋あけっぱなしにされても全然、ぜんっぜん、ぜんっぜん気にならないよ!」

 とでも言えと? そこまで言ったら嘘になるし! 


 わかるよね? こんなに毎日毎日、一緒にいるんだから。どうみてもあおいといる時幸せだろ、わたし。そもそもわたしが同居したいって言ったんだし。

 あおいだって、ただの売り言葉に買い言葉みたいなもんだろ。


 ねぇ。どう思います? おつぼねぷりんさん。

 わかるよね。おつぼねぷりんさんには、言いまくってるもんね、わたしがどれだけ好きか。


 迷惑だから一緒にいたくないとか、どうしてそういう方向に解釈するんだよ?


 そりゃまぁ、あおいには言ってないし。でも、恋愛で好きとかまさか言わないけど、好きな気持ちって、少しはそばにいたら伝わっていくもんだよね? 普通にしてたらダダ漏れなはずだし。


 だからこそ、好きすぎるのが漏れていかないように、こっちは気をつけてんだ。あのときだって、ゆるキャラとしてとか、ごまかすのがせいっぱいで。


 わざわざ言わなくたって……。言葉にしたら、また変なことを言いそうだしさ。

 そんな、わざわざ言葉にしなくたって……。


 あのとき。

 おつぼねぷりんに言われて、無理やりあおいに伝えに行った。

 絶対に言え、と言われて。


 ――せっかくプリンマニアさんがその子を好きだと思っていても、それ伝わらなかったら意味ないでしょう。


 ああ。だめだ。


 わたしは脱衣所に行き、あおいに声をかけた。

 一緒にいるのが嫌か? の質問に対して、わたし、ちゃんと返事してないわ。


「あおい」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る