第102話 ルームメイトが相談できないのが心配だったり


 確かに、簡単な気持ちでは告れない。私なら、言わないでそのまま何か理由をつけてルームシェア解消しそうだ。


purinmania:あとね、好きだと言われて悩んでることを、下手にいろんな共通の知り合いに相談されると、わたしは困る


おつぼねぷりん:ああ……


purinmania:でもそれって、言わないでって強制できないでしょう。悩みを与えるだけ与えて、人に相談するなって何? 簡単に共通の知り合いに相談されたらわたしはキツいけど、相談するなとは言えない。相談できないっていうのは、ルームメイトを追い詰めると思うね。告るなら、周りに言いふらされるのは覚悟しなきゃだし、


purinmania:誰にも相談しないでいてくれたとして、それってどうなんでしょうね。ルームメイトにショック与えるのも、相談できないストレスを与えるのも、覚悟した上での告白ってことになりますね


「…………」


purinmania:そんな覚悟できないし 


 なにも打てなかった。


 ――初めて言う。あおいに初めて言う。何度も言おうとしてやめた。


 唯花と、プリンマニアのルームメイトとは、また別なはずなのに。


 唯花のうるんだ目や、一言声に出しては引き結ばれた唇、固まった体。映像として目の前に蘇ってきてしまうと、もうだめだ。残像は私の体までも縛って、締め付けて動けなくさせる。


 小学生の頃に起こったことを、高校に入って私に言うまで、唯花は誰にも言えなかった。


 覆った手の平で瞼をぐりぐりと揉んでも、唯花は私の前から消えてくれない。

 この息苦しさは、きっと、私が感じるべきものだ。だから消えてくれないし、消したいとも思わないんだ。


purinmania:なんとなく、彼女は、周りに相談しないような気がする。それが怖い


おつぼねぷりん:うん……


purinmania:わたしが原因になったら、わたしが相談相手になることもできないしね


 読んでいて少し辛くなってきた。プリンマニアの心境を想像してそうなったのか、高校の時の自分を思い出したせいなのかは、判別できない。


purinmania:彼女に告白するっていうのは、色々なものを壊すことです。彼女自身も含めてね。だから、告るつもりはもともとないんだけど、時々、なんだかものすごく悪いことをしているっていう感覚が襲ってきて


 唯花に対して、好きでいた間ずっと罪悪感と自分への嫌悪に悩まされた。もちろん、好きになってよかったとか、幸せな気分も多かったけど。


 プリンマニアとやりとりするようになってから、どうしても、自分の昔のことを思い出してしまう。


 芽生に対しては苛立ちを覚えることも多いから、百合ネタにするときにだってそこまで罪悪感はない。が、芽生に腹が立つことが無くなったら、罪悪感が勝ってしまうのだろうか?


purinmania:頼られたい


 プリンマニアは短文を送って、私が返信を考えているうちに、すぐにまた心情を送ってきた。


purinmania:せめて頼られたい。なにか一点でもいいから必要とされたい。コイツにはわたしが必要なんだって、無理にでもいいから自分を思い込ませたい


 それが無理している原因なのか。


おつぼねぷりん:だいぶ切ないね……


purinmania:だから無駄にアピールしたくなるし。けっこう滑る


 言葉が選べない。唯花のことがあるからここまでプリンマニアに共感しているのか、わからない。声をかけたい気持ちはあるのに、文章にならずに、なりかけの言葉が空気として唇から漏れる。


おつぼねぷりん:一緒に住んでるぐらいなんだから、恋愛じゃないにしても、何かしらプリンマニアさんの良さを分かってると思いますよ


purinmania:おつぼねぷりんさんは、一緒に住んでても気が合わないとか言ってるくせに(笑)


おつぼねぷりん:好きなとこもありますって


purinmania:どこ?


 芽生のどこが好きだろう……。


 急に、後ろ姿の芽生が浮かんでくる。腰細いなとか、二の腕柔らかそうだなとか、脚が綺麗だなとか、そういうふうに芽生の「体」を見ているとき、たいてい後ろ姿だ。正面から見ているのがわかると嫌がられるかと思って、あまりじろじろ見ない。そのかわり、後ろ姿はよく見る。


 芽生の後ろ姿は、好きだ。


 それは……でも……言いたくない。


「好きなところ」と聞かれて、二の腕だとか……体のパーツを答えるなんて。しかもなんだ、腰とか、脚とか……? なんだよそれ。しかも「盗み見た」後ろ姿だ。確かに綺麗だけど、言ったらただの変態みたいだろ。


 芽生が誤解したら、ものっすごい冷たい目で見られそうだ。


 ……ムカつく。想像しただけで腹立ってきた。


 かといって、性格が合うとは言い難い。


 出会ったとき、年上かと思った。変更になった教室がわからなくて困っていたら、向こうから話しかけてきた。面倒見がいいのだ。芽生は。

 ただ、いつでも面倒を見る側に立とうとしてくるのに腹が立つだけ。

 

 価値観が合うとか、性格が好きとか、そういうことじゃなくて、芽生に対していいなって思うのは、表情とか、ちょっとした。


 芽生の、表情。プリン作りに集中してるときの、馬鹿みたいに真剣な目。しょっちゅう作ってるのにあそこまで真剣ってなんだよ。笑ってしまう。

 私を心配して顔を覗き込んでくるときの、優しい目。


 私は、芽生の目が好きだ。


 偉そうなドヤ顔……はイラっとするけど、まぁ、可愛い時もあるんだ。自転車乗れるようになるからって言った時は、ちょっとムキになってて可愛かった。

 喧嘩したあとにずっと部屋の外に座りこんで待ってた芽生も。見上げてきた目がなんだか妙に胸に刺さって。


 急に胸が苦しくなってきて、考えるのをやめた。


おつぼねぷりん:好きなところもあるけど、あまり意識したくないのが本音かもね




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