第69話 お昼に誘われたり

 お昼を買いに外に出て、戻って来たときに、エレベーターホールで皆堂とばったり会う。お疲れ様です、と言って皆堂は私の手元を見た。


「お昼何にしたんですか?」


 最近、皆堂はほんのちょっとしたことで話しかけてくるようになった。


「生姜焼き弁当」

「私はコンビニじゃなくて、スーパーに行ってみました」


 スーパーなんてあったっけ? エレベーターに乗り込みながら、首をかしげる。


「ちょっと歩いたところに新しくできたんですよ。米屋の角曲がった奥」

「へえ。どんなの買ったの?」


 皆堂が袋の中味を見せてくる。副菜として野菜がたっぷり入ったペンネアラビアータ。……この量で三百円?


「安い」

「いいっすよ。おすすめです。焼きたてパンコーナーもあって、ピザもあって」


 エレベーターが開き、三階から小林まどかが乗ってきた。


「お疲れ様です」


 重ねるように私たちが言うと、小林はお疲れ様です、と返事を返した。私はマカロンのお礼を言おうかと思い、「あなたにしか買ってないから、他の人には言わないで」と言われたことを思い出した。


 他の時にしよう。皆堂は小林嫌いだし。


 しかし、モノを貰っておいて、いつも通りも違和感がある。ボタンを押して小林がふいにこちらを向いたので、私は会釈をした。


「今日、いつもの子たち、支店でしょ」

「あ、はい」

「お昼ひとり?」


 小林に聞かれて、あまり考えていなかったことに気がついた。

 そうだな。会議室をいつも昼用で借りているが、一人で会議室っていうのはな。デスクで食べてもいいが、電話が来ると気が休まらなさそうだ。八階のテラスで食べるかな……。


「私と食べる?」


 小林が聞いてきたので、迷う。イヤだが断りづらい。デスクで一人で食べた方が気が休まるのでは……。ちらっと皆堂を見たのを、皆堂がどう取ったのか。


「私とテラスで食べるんで。相談にのってくれんですよね〜」


 相談。

 私と食べるんです、よりも割り込みにくい理由を作って、皆堂は私ににっこりと笑った。


「ね」

「え、うん」


 小林は意外そうに私と皆堂を交互に見た。


「そうなんです」


 助け舟を出してくれた……んだろうな。きっと。


「そうなの。じゃ、そのうちにね」


 小林は言って次の階で他の人が乗ってきたのと入れ替えに降りていった。

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