第67話 言い訳できるかと思ったり

「ごめん」


 和美は謝った。


「ごめん。プリンとまちがえた」

「は?」

「いや、だから」


 焦るな焦るな。きちんと説明すれば、桜はわかってくれる。自然にキスする流れだったから仕方ない。


「プリン見るでしょ、プリン食べるでしょ。プリン見る、プリン食べる、プリン見る、プリン食べさせる、プリンを食べた唇を見るでしょ。唇見る、唇タベル。……ほらね?」

「…………」


 何がほらねだ、と言われれば返す言葉はない。


「唇見て、プリンを食べるでしょ。ほら……わかるでしょ。まちがえやすいわけ……」

「右上げて、左上げて、左下げないで右下げる、みたいなこと?」

「そうそうそう!」

「まちがえたんだ。ふうん」


 やや詰るような言い方に、身を縮める。

 恐る恐る、桜を見る。


「まちがいじゃないなら、ちゃんと考えたのに」

「えっ」


 桜は耳まで真っ赤になっていた。


「……なんちゃって。まちがいでキスした罰として、ちゃんとプリン全部食べさせて」






 キス……口づけ……接吻。

 ……してやがる。


 わたしはベッドに転がり、身体を捩った。

 ……ふぁぁぁあああ!! 

 しかも、なんだって? ちゃんとプリン全部食べさせて? ……あっまあまじゃないか!


 久々に更新されたプリン小説を読んで、わたしは、また悶絶する羽目になった。


 っていうか。ねぇ。ほんと、どうなってんの。どういうこと!? ねぇ。繋がってんの? 知らない間にお互いテレパシーか何かで通信してんの。

 離れていても、わたしとおつぼねぷりん、繋がってんの?


 ブリッジか。ブリッジしたせいか。あれでなんか繋がったんだな、そうだな。


 いや。

 前からおつぼねぷりんはこうだった。

 わたしがスプーンをペロペロすれば、和美もペロペロする。わたしが指であおいの唇に触れれば、和美も触れる。今回も同じってだけだ。

 わたしがうっかりあおいにキスしそうになれば、和美もうっかりキスするんだ。いつもどおりの驚異のシンクロだ。怖い。


 くそ……プリンと唇をまちがえる……実に自然じゃないか。そもそもあおいの唇とプリンは似てるんだ、見てたらうっかりキスしたくなるんだ、当たり前だろ。


 わたしも、してしまえばよかったんだ。せっかく誤って事故りそうになったんだから。そうだ、まちがえたとか言えば、何とかなる。そう。何とか……。


 ……ごめん焼きおにぎりとまちがえた。


 何とか――なんねーよ!!


 無理だ。それで納得させるのは無理だ。

 潰れた冷凍焼きおにぎりは、唇と似てはいない。見た目も、きっと感触も。ラップがごわついているだろうし、尖った米の固さと冷たさもあるはずだ。冷凍おにぎりをそのまま齧る趣味もない。


 わたしが吸いつきたかったあおいの唇はもっとこう……。

 

 引き寄せる吸引力の強さに、立ち止まる事ができてよかった。小説だから自然にみえるだけだ。焼きおにぎりがプリンになっても、リアルではわざとらしすぎて怪しさ満点だろう。


 でも、この気持ちはごまかせない。共感しかない。


 わたしは応援コメントを入力した。


 裏山!!!!


 打ってから、いったん画面から目を離し、投稿前に見直す。

 我ながら、勢いつきすぎてがっついてて怖い。

 わたしは一度入れたコメントを削除して、新しく入れ直した。


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