第60話 百合について話したり
翌朝わたしがパジャマのままで顔を洗いに出ると、あおいはもうリビングで朝ごはんを食べていた。
今日も焼きおにぎりらしい。眠そうな座った目をして、両手で持って食べている。リスみたいだ。
好きだな、焼きおにぎり。具を買い忘れても作れるとかドヤ顔で言ってたから、あおいにとってのお手軽メニューなのか。
「ずいぶん早いね?」
そう聞くと、んー、と唸って、あおいは時計を見た。明らかにいつもより早い。もう着替えてるし。
「残業になりそうだけど、帰りに寄りたいところがあるから。少し早出しようかと思ってる」
「ふーん。夜ごはん、要る?」
「それは要る」
「……あのさ」
注意深く、けっしてこちらだけが気取られるということのないように。
なおかつ直球を投げた。
「百合ってどう思う?」
あおいの咀嚼が止まった。
一瞬目が鋭くギラリと光った気がした。
わたしはその視線だけで、もう続きを聞くのが嫌になった。
なに? 気持ち悪いと思った? 機嫌悪い? 眠いから? どれ?
「なに、急に」
「友達が好きだって言うから。どんなもんかなと思って」
「花だね。フラワー」
わたしは愕然とした。
そうだった。百合にはもう一つ、意味があったのだ!
花……!
そうだった。あまりに百合ジャンルに傾倒しすぎて、花としての百合を忘れていた。そうだよな。普通はそう思うよな。百合は、花だ。そうだった……。
「友達にあげるの?」
「うん、まぁ」
「匂いが強いから、お見舞いとかそういうのだったら、やめたほうがいいよ。じゅうたん敷かれた家も向かない。花粉が付いたらなかなか落ちないし。めっちゃTPOを選ぶんだよあの花は」
あおいは焼きおにぎりを食べ終えると、包まれていたラップをぎゅっと握ってゴミ箱に捨てた。
「嫌われやすい花だよ、百合」
「そう?」
「匂いは強いわ、いまいましいほど花粉は落ちないわ」
なんだ? なにか百合に恨みでも……? さっきの視線の鋭さは、百合が嫌いだからか? 花粉が取れなくて困ったことでもあるのかな。
「リビングには飾らないようにするよ……」
あおいの反応に恐れおののきながら、それでも聞けて、すっきりした。
うん。こいつは違う。
百合を花としてしか見ていない。しかも嫌っている。
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