第59話 プリン小説のモデルの愚痴をきいたり
おつぼねぷりん:私の事、アホで、いろいろ理解できないだろうと思っていますね。考えてること何にも話してくれないし
purinmania:こんなに話しやすいのに
おつぼねぷりんが愚痴りだしたので、フォローを入れる。
おつぼねぷりん:ありがとうございます。だいぶ昔ですけど、こんなことありましたよ。じっくり何か本読んでるから、何読んでるの? 面白い? 面白かったら貸して、って言ったんですよ、彼女に
本の趣味が合わないとかもあるのかな。価値観ちがうと、だいぶ理解しづらくなるからな。
おつぼねぷりん:そしたら、向こう、なんて言ったと思います? 貸してもいいけど、あんたに理解できるかなぁ? って言ったんですよ。わざとらしく嫌味で言うんじゃなく、素で
purinmania:それはw 失礼ですね
おつぼねぷりん:むかつくから、読んでみるからよこせ、って借りたんです
purinmania:感想とか言ってやりました?
おつぼねぷりん:いや
purinmania:言わなかった?
おつぼねぷりん:理解できなかったので
purinmania:ちょw ルームメイトさんの予想通りだった、と?(笑)
おつぼねぷりん:それは結果にすぎない
おつぼねぷりんの、不満げなふくれた表情が、トーク画面から伝わってくるようだった。
おつぼねぷりん:最初っから、理解できないだろって決めつけられると腹立つでしょ! 理解できなくても、話してほしいとか、あるじゃないですか。悩んでることだって、話してくれたら出来ることだってあるかもしれないでしょう
拗ねてる。こういうのは、拗ねてるというのだ。本人に言ったら怒りそうだから言わないけど。
おつぼねぷりん:それに、全部読み飛ばしたわけじゃなくて、一か所だけ、いいなって箇所もありましたよ。言わなかったけど
purinmania:言えばよかったのに
おつぼねぷりん:言えませんよ
purinmania:どうして? なんの本ですか?
おつぼねぷりん:プラトン
purinmania:そっち系か
おつぼねぷりん:全体的に小難しいな~って思ったんだけど、一箇所だけ、気に入った。昔、人間は三種類いたっていう話がね
purinmania:どんなのですか?
おつぼねぷりん:原初の人間は、腕が四本、足が四本あって、頭が二つあって。いまの二人分の人間がくっついていたんですって。前も後ろも見えるし、丸いかたちをしていて、いざというときは転がっていける、こりゃ俺TUEEE! っていう状態だったと。そういう原初の人間が、男男、女女、男女の組み合わせで三種類いた、って話があったんですよ。それを、人間を弱くするために神様がぶった切った。そのせいで人間は失われた半身を求めているってね。男女から分かれた半身は異性の半身を。女から分かれた女は女の半身を、男から分かれた男は男の半身を求めるとか
purinmania:饗宴だ
おつぼねぷりん:タイトルそんなんだったかも
purinmania:わたしも読まされたことあったな。確かにそこ、記憶に残った気が(笑)おつぼねぷりんさんそこが良かったわけですか
完全にセクマイ当事者の感想だなそれ。
そう思ったが、突っ込むのはやめた。本人もわかってるんだろう。だからルームメイトに言わなかったのだ。
確かあの話は、お腹側が、ぶった切られた切り口だった。だから抱き合いたくなるのだ、妙に共感したのを覚えている。
もし、あおいと、切り口をぴったりと重ねあわせることができたら。
失われた半身を求めて完全性を目指すという話は、完璧主義のわたしに、不思議な感覚を抱かせた。
あおいはわたしと全く別の人間だ、合わないところが沢山あるはずなのに、それでもわたしは、あおいと一緒にいたいのだ。合わないところこそが、わたしに欠けているところなんだろう。欠けているからこそ争いの種になる。
お互いに不完全でありながら、混ざり合いたいと欲求する半身。
恋が、完全性へ、善いものへ向かう欲求だというなら、そうなのかもしれない。日常を舞うかけらとなって、幸福感はわたしを誘い、あおいに向かわせている。
あの本で書かれていた「良いものを永遠に自分のものにしたい」そんな欲求、わたしが現実で満たされることがあるんだろうか?
せめて、おつぼねぷりんにするように、もっとあおいと、本当に思っていることを話せたら、どれだけ幸せだろうと思う。
おつぼねぷりん:そこだけ気にいってね、あとはもう、読んでて、途中から、ほかの本のことを考え始めちゃったしね、集中できなかったんですよ
purinmania:ほかの本って?
おつぼねぷりん:絵本ですけど。シルヴァスタインの「ぼくを探しに」。自分に足りないピースを探すところとか、転がってくところが、なにか連想で頭のなかで繋がっちゃったんですよね。哲学書より絵本のほうが好きなんですよ。良かったら読んでみてください
purinmania:図書館で借りてみます
おつぼねぷりん:とにかく、いいなと思ったのがそこだけだったので、彼女には言う気にならなくて。やっぱりわかんなかったわって言って返しました
「やっぱりわかんなかったわ」
ふと、デジャブのように、あおいの言葉が耳に蘇った。
そういや、貸したな。確かその本だった。あおいには理解できないだろうなと思いながら貸して、「わかんない」って返って来たから、ほらやっぱり漫画でも普通に読んどけよって……。
――――あれ?
いや……まさか。
いや、ないだろ。さすがにない。たまたま、関東圏に住んでいて、ルームメイトとプリンを食べさせあってるからといって。
わたしのあおいは、ここまでの変態じゃない……はず。
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