第54話 謝罪小説を書いたり
転がったヤシの実を拾い上げたとき、マサコはありがとうと口にした。拾ってくれてありがとうと。そしてそのまま土下座していた。ヤシの実からココナツミルクを飲みながら、土下座しているマサコに声をかける。
「ちゃんと飲んであげますから」
マサコは上目づかいでこちらをちらりと見る。
「土下座やめてください」
「……もう許してくれたの?」
「まだ許してません」
「あんっ」
マサコは土下座しながら身をよじらせた。
「私が……ごめんなさいってもう一度言うから、許さないって……もう一度言ってくれる?」
「何度謝られても許しません」
「あんっ……! もっと責めてぇ……土下座きもちいいぃぃぃ」
マサコは身もだえた。
……許されないことに快感を覚える変態に仕立てたというのに、かえって罪悪感が増した。どうしてだ。
一息いれよう。
リビングから紅茶をもってこようとして、ちょうどいいお茶請けが鞄のなかにあることに気がついた。
「芽生、マカロン好き?」
ノックしてたずねたが、返事がない。
「芽生」
「待って」
しばらくして芽生がリビングに出てきた。顔が真っ赤になっている。あれ……芽生、風邪ひいたか?
「マカロン? どうしたの」
「貰ったから。食べるかなって」
「いいの? マカロン久しぶり」
二人分の紅茶を入れて、さて食べようと思い、うっかり口にした。
「なんかね、お詫びだって」
「お詫び?」
「お局から」
芽生の手が止まり、私の顔を凝視した。
「謝ってきたんだ?」
「うん、そう」
「…………」
芽生はマカロンを摘もうとした手を、そのままテーブルに置いた。
「ごめん、食べられない」
――なんでだ?
私が芽生を黙って見つめると、芽生は私をちらっと見てから、マカロンに目を落とした。
「謝るために買ってきたんでしょ。わたしが、謝るためにあおいに作ったプリンを、ほかの人と分けられたら、イヤだよ?」
「いや、そんな」
そんなたいそうなものじゃなさそうで――。
そう言いかけて、皆堂の言葉を思い出した。
――ヘコんでましたよ。先輩が出ていくの見て、くずおれるみたいになってましたよ。
「こういうの、ほら、ご家族でどうぞ的な……そういう受け取り方でいいと思ったんだけど」
「ごかっ、」
芽生はどもった。
「まぁ……確かに、あおいへの無礼は、わたしへの無礼ともいえるね」
「え?」
芽生は迷ってから、マカロンを摘んだ。
「じゃ、いっこだけ貰う」
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