第53話 表面上許したり

 ――私が怒ってると思っていたんですか? かえってすみません。いつもありがとうございます。


 にこやかにマカロンとキーホルダーを受け取ったが、あまりの違いに私は驚いていた。

 小林まどかの態度の違いように、ではない。

 謝られて身のうちに巻き起こる、感情の違いにだ。


 真剣に謝られて、少し気は晴れたが、それでも小林まどかを好きにはなれそうにない。キーホルダーもできれば使いたくない。

 それは入社してからずっと浴びていた言葉や態度が、そんなものでは癒えないほどに私の中に積もっていたせいでもある。

 どちらかというと、今この場では怒られないらしい、そういうほっとした感じだけがあって。

 私は小林には、「怒っていないふり」「許したふり」ができるのだ。会社の先輩だから。


 逆に芽生に対しては、私ははっきりと口に出した。

 ムカついた。許さない。もう二度と言わないで、と。


 この違いはなんだろう。


 芽生に対しては、甘えがあるのかもしれない。

 私が芽生への怒りの感情を口に出しても、聞いてくれるかもしれないという甘えが。少なくとも、聞いてくれようとはするだろう。芽生に対して、私に振り回されろという、意地悪な思いもあるかもしれない。どうしてだろう。


 私は芽生からのプリンは喜んで食べたし……たぶん、キーホルダーをくれたのが芽生だったら、大切に使おうと思っただろう。


 小林まどかに対しては、内面の交流がまったくないまま人生を終わろうとどうでもいい。口で許しているのは小林まどかのほうだが、本当に許していたいのは芽生のほうだった。


 芽生に対しては少し違う感情がある。

 芽生に自分のことをすべて話すつもりはないわけだから、表面で付き合っていることは変わらないのに。

 おそらく、私の目を見つめる芽生の視線のなかに、私は問いかけを感じているのだ。答えたくなるような問いかけを。


 あれだけ、謝れ! と思っていた小林が謝ってきたのに、嬉しいと思えない。意外と許せない。この罪悪感を、私は愉しむことにした。お局小説に書こう。この気分を中和させよう。

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