第52話 謝られたり

「ちょっと、更衣室にきてくれる?」


 小林まどかに背後から声をかけられて、背中がぞくっとした。

 プリンマニアの変態さに気がいってしまっていて、小林のことをすっかり忘れていた。


 更衣室への呼び出しが、いいことだったことなんて、一度もない。なんらかのお説教タイムになるに決まっている。小林まどかは座った目で私を見下ろしている。への字に固く閉じられた唇からは、何かを言おうとする緊張しか感じられない。


 さっさと小林が更衣室に入って行ってしまったので、いやいやついて行った。

 小林まどかは自分のロッカーを開けていた。ロッカーから小さな箱を取り出すと、わたしの手の平の上にそれを置いた。


「これは……?」

「お土産」


 会社を休んで、寝込んでいると思っていたが、どこかへ行ったのだろうか。


「あなたにしか買ってないから、他の人には言わないで」

「え?」

「遊びに行くためにさぼったわけじゃないからね。午後元気になったから、それを買いに行ったの」

「開けてもいいですか?」


 箱をあけると、小さな鈴のついたキーホルダーと、四つ入りのマカロンが入っていた。


「更衣室のカギ、なくしそうって言ってたから」


 このキーホルダーを使えと?


 ――イヤだ。

 そう感じたが、もちろん顔にはださなかった。


「どうしてですか? 私にだけって」

「ごめんなさい」


 突然の謝罪の言葉に驚いて小林を見る。


「勝手な思い込みで、突っ走ったこと口にして。言いすぎたから」


 常識がない発言のことか。まさかこんなにきちんと謝られるとは思わなかった。小林は落ち着かなさげに視線を外すと、私に言った。


「マカロン、食べてね」

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