第40話 ブリッジしたり
プリン小説の最新話を読んで、驚きを隠せなかった。
裸でブリッジして……え? なん……?
なにを、していらっしゃる……?
体の外側でも内側でもプリンを感じたくなり?
桜の事を思いながら、宇宙で繋がりあい……だと……?
そこには、いままで感じていたような共感はなかった。自分もやっていたような事、感じていたような事が書かれていたのではなく、その先――わたしが到達していない境地が描かれていた。
わたしはおつぼねぷりんの最新話を、何度も何度も読み返した。
二人の愛の交換をしたスプーンを口にしたとき、私の舌は、流れ込む天上の恍惚を一さじたりとも逃すことのないよう……。
おつぼねぷりん……すげー。
すげーこと書くな……。理解できない。エロを越えてスピリチュアルな何かに到達してないか?
天上の恍惚。どういうものだろう、それは。離れていても感じられる、愛する人との繋がり。同じ宇宙に存在しているという実感。
おそらく、おつぼねぷりんは、人間の小ささを表現するために、「愚民どもを見下すためには」とわざと和美に言わせた。
宇宙的な観点から見れば、そういった「愚民」扱いされるような人間も、桜も、「愚民扱いしてしまう」和美も、同じ原子の集まりに過ぎないと。原子の単位で見れば、身体は空気を通して、すべての存在と繋がっていると。
そういった気づきを和美にもたらして、驚きを感じさせるために、一度和美を、人を「愚民」扱いするようなキャラに下げたのだ。
おつぼねぷりんからすれば、そういった人間も可愛く感じるのかもしれない。
わたしが愚民扱いしている人間……職場の取引先のクソ男。正真正銘の野グソ。ああいうのも、嫌だけどこの世には存在していて空気を通して繋がっ……げ……想像するんじゃなかった。
あおいで想像したい。もしくは……空や木や地面などの自然物で。もしくは……おつぼねぷりんさんと繋がっていることを、実感したい。
この何日かのやりとりで、わたしはすっかり、おつぼねぷりんの人間性に魅了されてしまっていた。人間性とまで言うにはそこまで知ってはいないというなら、おつぼねぷりんの反応に。わたしに充てて書いてくれる、ノンフィクションの、一人の人間としての言葉に。
いま、おつぼねぷりんが何らかの教祖として活動を始めたら、迷うことなく信者になってしまいそうなほど。
皿もスプーンも洗ってしまったので、あおいの舐めた直後のスプーンは残ってない。でも、よく舐めているスプーンなら――洗ってあるが、食器棚に入っている。
わたしはいそいそと食器棚からあおいのスプーンを取り出し、自分の持っている本「ヨガ・ダイエット! これであなたも脂肪燃焼!」の、目次を探した。
これか。橋のポーズ。おつぼねぷりんさんって、ヨガやってんのかな。このポーズやったのかな。だいぶのけぞってるけど、最近たいして体にいいことしてないからな、ギシギシしそう。大丈夫かな。
わたしは柔軟運動をみっちりとしてから、身体がポカポカ熱くなってきた頃合いを見計らって、服をすべて脱いだ。
なんだって……ブリッジして……四肢を地に張って? 地面と一体化?
いや、ちょっと、このポーズきついんですけど!
ハァハァハァハァと息切れして、少し休む。そうだ、呼吸は深くしないといけないんだったか? 呼吸を深め、大地と一体となり?
ハァ~~、ハァ~~、フ~~、ハァ~~。
どうにか体をのけぞらせる。
痛い痛い痛い痛い。やりすぎだ。
でも。
おつぼねぷりんが感じたことを、わたしも感じてみたい。
プルプル震える片腕で全身を無理に支えながら、わたしはスプーンを手に取り、口にくわえた。流れ込む天上の恍惚を一さじたりとも逃すことのないよう。舌がつりそうなほどペロペロしてみた。割と高速なかんじ?
イテテテテテテ!
「うくくけけけけ!」
無理なポーズがたたって首が悲鳴をあげた。それと同時にわたしの喉から悲鳴が漏れた。
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