第35話 謝ろうとされたり

 プリンを半分食べ損ねたのと、ハヤシライスが一皿とサラダだけの、芽生にしては珍しく品数の少ない夕食のせいで、小腹がすいた。

 すっきりしたので、リビングで何か食べようとドアを開け――るつもりが、なにかに引っかかった。


 芽生の膝だった。ドアの前に芽生がぺったりと座り込んでいた。


「あおい……」


 見上げてくる芽生の目は潤んでいた。


「…………」


 謝ろうとしてるのかな。目が潤んでいるときの芽生は可愛い。とくにこうやって大きな目を見開いて――。


 見開いて。


 一瞬で、目を見開いてスプーンをペロペロしながら裸ブリッジしている芽生の姿が重なった。


「~~~~! ……クッ……」


 口元のにやつきはごまかせないが、どうにか腹筋の力を使って吹き出す笑いを耐えた。


 やべぇ。


 これ、芽生の顔見るたびに、裸ブリッジ思い出すわ。


「あおい、あの」

「うくっ……い、今、顔みられな……クッ……」


 だめだ耐えられない。


 頭の中で、裸ブリッジ芽生が、目を見開いてスプーンを咥えてペロペロしながら、ゆっくりと動き出した。


 腕や首が床についたただの橋のポーズから、それは手のひらと足裏だけを床につけてより丸みを帯びて体を反らせる「車輪のポーズ」へと変化を遂げた。そして、車輪は一輪から二輪へ、二輪から四輪へ。細胞分裂するかのように増えた。


 目をカッと見開き、ハァ~~、ハァ~~、と深い呼吸とともに高速でスプーンをペロペロしながら。


 ゆっくりと、たくさんの芽生がぐーるぐーると回り始めた。



 も、もう……無理……!


 私は芽生の顔をなるべく見ないようにして通り過ぎ、冷凍庫からアイスを取り出し、そのまま芽生をスルーして自分の部屋にまた籠った。

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