第36話 説教されたり

 どうにも感情の切り替えのしようがなくて、ベッドを鬱々としながら転げまわり、メールチェックをする。おつぼねぷりんの更新通知が入っていた。プリンのほうだ。

 今、プリン小説を読む気にはなれない。あおいのことで頭がいっぱいだ。何も考えられない。

 でも「プリンのじかん」が頭にうかんだら、最新話を読めない状況なのも含めて、おつぼねぷりんに話したくてたまらなくなった。


purinmania:やっちゃった


おつぼねぷりん:どうしました?


 即レスだった。


purinmania:友達を怒らせました


purinmania:やっちゃまずいことした


おつぼねぷりん:何したんですか?


 おつぼねぷりんが、ちゃんとレスを返してくれる。小説と何の関係もない、個人的なことなのに。


purinmania:ちょっと、本当に言っちゃいけないことを言っちゃったらしくて


おつぼねぷりん:どんな?


purinmania:おつぼねぷりんさんにも軽蔑されます


おつぼねぷりん:とりあえず話してくれませんか?


purinmania:いじめられている子に、あなたに原因があるんだろう、的なことを言いました


 おつぼねぷりんの返信が止まった。

 不安が腹の底からむくむくとわいて出て、脳内を浸していく。

 しばらくしてから短文が飛んできた。


おつぼねぷりん:ダメです


おつぼねぷりん:それ


おつぼねぷりん:絶対言っちゃダメなやつ


 そう……そうか。おつぼねぷりんさんもそう思うか。やっぱりそうか……。あ~~~~。


おつぼねぷりん:なんで言っちゃったの、そんなこと。悪い所直させるために、忠告した?


purinmania:そういう意味じゃなくて、ただ、可愛くて


purinmania:素直でいちいち反応してきて、それがほんと可愛いの、もう。そういうのが原因だよって意味で。いじりたいほど可愛い反応するのが原因だよって。別にけなしたつもりはなくて


purinmania:もうほんと、親でもわたしに殺されたみたいな顔してて


おつぼねぷりん:あやまったんですか?


purinmania:謝ってない。顔をあわせてくれない


おつぼねぷりん:原因があったとしても、簡単に言っちゃだめなんですよ、それ


おつぼねぷりん:何も原因なくて相手の都合でいじめられてる人には、失礼な話だし


おつぼねぷりん:原因あればいじめていいかって言われたら違うと思うんですよ


purinmania:はい


おつぼねぷりん:完全に怒ってる感じですか? 電話も出てくれない感じ?


purinmania:一度、目は合ったんです。そしたら、彼女、にこっとしたんですよ。それがちょっと変な笑い方で。ひきつりそうなっていうのかな。そのまま顔を隠しちゃって、なんかプルプルしてて、そこから全然顔を合わせてくれない


おつぼねぷりん:それ、本当にちゃんと話したほうがいいですよ!


purinmania:話したいんですけど、ほんとに無表情で目の前スーって素通りされて


おつぼねぷりん:いじめられてる人は、自分でももう、何度も何度も、考えてます。自分に原因があるのかって。何が原因だろう、何がおかしいんだろう、自分は変なのか、どこが原因だって、グルグルグルグル考えてます。もう充分すぎるほど考えてる。ひょっとして生きてる事に向いてないんじゃないかって所に行き着くほど


おつぼねぷりん:これが原因だからこうすればいいよって、具体的に言うならともかく、っていうかそれでも、直せない人にとってはキツイくらいなのに


おつぼねぷりん:あなたに原因があるんじゃないか、という漠然とした言い方をすれば、漠然としていればいるほど、本当に刺さります。いじめた相手以上に相手をえぐる言葉になります


purinmania:可愛かっただけなんですよ本当に。可愛いは正義、可愛いは悪魔、みたいな。だから、他でも可愛がられていじられてるのかなと


おつぼねぷりん:それは伝わらないよ。プリンマニアさんのそれ、伝わってないと思いますよ


purinmania:どうしよう


おつぼねぷりん:言うしかないですよ、相手に


purinmania:なんて言えば


おつぼねぷりん:そのままです。そんなつもりはなかった、ダメな所があるとは思っていなくて、原因はいじりたくなる可愛さだ、可愛いって言いたかったって、言うしかない


purinmania:そんな事は言えない


おつぼねぷりん:いや何でよ


purinmania:可愛いからって言うんですよね。可愛いからって。絶対気持ち悪い言い方になる自信がある


おつぼねぷりん:プリンマニアさん、もしかして、それ、好きな人に言ったの?


purinmania:そう


purinmania:好きな子に言いました


おつぼねぷりん:ばかだ


purinmania:可愛かったんですよ


おつぼねぷりん:言いなさいよ、好きなんでしょ。言ってやれ、好きなら


おつぼねぷりん:そのままにするの、気持ち悪いでしょ


purinmania:毎日可愛いって思いすぎてて、普通に言える自信がないですよ。言葉にしたら、絶対それが出ます。可愛かったからげへへへ、みたいになる。そんな事言ったら、気持ち悪がられる


おつぼねぷりん:プリンマニアさん、私も似たようなこと言われた事あるんですよ。本気で腹が立ちました。でも、私みたいに怒る人ってまだマシなんですよ。瞬間湯沸かし器みたいにバッと怒って小説書いてストレス解消して終わりです。私ならです。相手の子がどういう子かわからないから、想像するしかないんだけど、無理して笑ってたんでしょ? 


 あおいが苦しそうに笑った様子を思い出す。

「うくっ……い、今、顔みられな……クッ……」

 彼女は顔を隠してしまったが、小さな身体がプルプル震えていた。


おつぼねぷりん:今の状況が辛いのが、自分のせいなんだって思いつめるタイプだったらどうするの? 本当にいじられ程度なの? いじめられてて、毎日だれかに自分を否定される環境にいると、人間病むんですよ。洗脳されてくるんですよ


purinmania:洗脳?


おつぼねぷりん:オマエはダメな人間だっていう洗脳。否定する人間が多くなると余計にね。相手に対して怒れる状況にいる間はマシなんです。本当につらい時に、笑うことしかできないって、本当に怖いんですよ。怒ることや泣くことを許されてない、そういう資格がない、っていう感覚わかります? あなたっていいねって、言ってくれる人が一人いるだけで違うんです。せっかくプリンマニアさんがその子を好きだと思っていても、それ伝わらなかったら意味ないでしょう


 わたしに返す言葉に、ひとつひとつ、痛みが伴っていた。おつぼねぷりんは過去にいじめられたことがある人間なのかもしれない。


おつぼねぷりん:誤解がもとで、彼女が消えたいと思ってたりしたらどうします? 何かあったとき、プリンマニアさん、後悔しないの?


 やりとりするようになって間もないというのに、この件に関して、おつぼねぷりんの文章は真摯で、真剣で、わたしに対しての変な遠慮が一切なかった。わたしの迷いに踏み込むことに、容赦もなかった。


おつぼねぷりん:好きな子に気持ち悪がられるのと、好きな子が自分を否定して苦しい思いしてるのと、どっちがいいの?


purinmania:彼女が苦しいのがいや


おつぼねぷりん:傷つけたままにしたいの?


purinmania:絶対いや


おつぼねぷりん:言いましょう


 わたしの迷いを断ち切るように、おつぼねぷりんの言葉が鋭くなった。


おつぼねぷりん:絶対に言え


 有無を言わせぬ空気だった。


purinmania:言います


おつぼねぷりん:報告まってます

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