第37話 謝ったり

 わたしはまたリビングに陣取った。あおいが出てくるのを待ち、しばらく出てこなさそうだとわかると、あおいの部屋のドアにそっと近寄り、耳をつけて中の様子を窺った。

 泣き声が聞こえたらどうしようと思ったからだ。


 物音がしない。寝ているのかもしれない。ノックしたら起こしてしまうかもしれない。

 寝ていたら気づかないぐらいの小さな音でノックした。


「なに」


 声が返って来た。言え。勇気を出せ。謝れ。気持ち悪くていい。骨は――骨はきっと、おつぼねぷりんさんが拾ってくれる。……かな。拾ってくれるといいな。


「そこで聞いてくれてもいいし、出てきてくれたらもっと嬉しい。聞いてほしい。お願い」


 しばらくして、衣擦れの音が近づいてきて、ドアが開いた。

 あおいが首をかしげたまま、わたしを見ていた。


「さ、さっきのは――あ、愛されキャラ的な意味で、言った」

「んん?」

「だから、会社で、か、かわ……」


 顔がかーっと熱くなってきて、わたしはおつぼねぷりんの命令形の文章を思い出して、それに頼った。


 絶対に言え。


「かわいい……? から?」


 つい疑問形を挟んだが、これが精いっぱいだ。


「愛されキャラとしていじられてるって、そういう意味で、言った」

「誰に愛されてるっていうんだよ」


 あおいのいまいましそうな声に、つい返した。


「わたしに……」


 あおいが、驚いたようにわたしを見つめた。


 ――――。

 おつぼねぷりんさん――。


 これ、ちょっと、可愛いとかより、まずいこと口走ってませんか、わたし。

 告ってないか? わたし?

 なに、なんでこうなった? 


 おつぼねぷりんのトークが脳内に直接打ち込まれる気がした。

 ばかだ、と。

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