第50話 妄想を別の声できいたり

 何の気なしに放られた「こぼすよ」の単語は火がついたまま私に着弾し、芽生の声で再生された。手を押さえるように握っていた、芽生の声で。

 プリンマニアが悪いわけじゃないが、急に握られていた手が熱を持ったように感じて、あの身体を焼くような視線がちらつき始めた。


おつぼねぷりん:こぼすよ、ですか


purinmania:わたしのベッドなんだから、握ったりしてこぼしたらだめだよね? と言いますね。いい子だから動かないんだよ、いい子だね、プリン食べさせてあげるね。人のプリン食べちゃうほど、プリン食べたかったんだもんね、いいよ、食べさせてあげる、ってね。唇の周りにプリンを落として、指ですくって食べさせて。唇からわたしも直接プリンをもらいます。おいしいね、プリンおいしいね、好きだよっていっぱい抱きしめて、撫でて。それから体中にプリンを落としていきますね


 …………。


 芽生の声で再生される。どうしようこれ。でもプリンのエロでどんな展開を考えるか聞いてしまったのは私だから、このまま続けるしかない。


purinmania:体にプリンを落とすたびに、まぶたでプリンが揺れます。目をちょっとぎゅっとつぶったら、まぶたがぴくんってするからね。プリン、やばい……。震えるまぶたの上での絶妙な揺れ、プリンやばい


 興奮ポイントそこかよ! まぶた&プリンにまた戻ってきやがった!


おつぼねぷりん:はいはい、素敵ですね


 私はちょっとぞんざいな返事を返した。自分でも言ってたけど、この人、確かにちょっと変態入ってるかもな。


 体にプリンを落とす……この辺の想像は……まぁ、わりとノーマル……だよね? 私もネタとしては想像したことはあるし。いやどうかな。プリンマニアさんが言うと本気でやりそうで、だいぶ変態くさいけどな。発想じたいは、まぶたにプリンよりはるかに普通。


 目を閉じてチューがくるはずのところに、いきなりまぶたにプリン垂らすってのは、最初っからメインストリートを外れてんだよ! プリンマニア、思った以上に独創的で驚いたわ。


おつぼねぷりん:まぶたで揺れるプリン素敵ですね……それで?


purinmania:それで、脇のほうから少しずつ、プリンを触れさせていきますね。少しずつ上にいくように、ほんとうに少しずつね。で、山の頂に、直接プリンで触れます。一番感受性が高いところね。冷たいから反応して形が変わっちゃうかもしれませんね、もしそうなったら、形が変わったの、伝えてあげますね。見えないからね、教えてあげないと。で、そのプリンを吸いますね。「だめだよ、反応したりすると。こぼすよ」って言ってね


 ヤバかった。


 大筋じたいは自分でもしたことのある想像のはずなのに、いつもより変な気分になってきている。会話がぜんぶ、芽生の声で再生されてしまっているせいかもしれない。


 こぼすよ、のパワーワード、もうやめてくれ。


 想像したシチュエーション自体はそう変わらないのに、プリンマニアの妄想のほうが数段、微に入り細を穿つものだった。


purinmania:体中にそれをやって、とろんとろんにして、彼女が動いてこぼすたびに、動いちゃだめでしょ? って言って、彼女が限界になるような弱点を攻めて、お仕置きをしかけますね


 …………。


 それで? どうなるんですか? の合いの手を入れることに、私は迷いはじめた。

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