第27話 特別な誕生日が増えていたり
今日も、プリンマニアさんが、ハートと応援コメントをつけてくれている。
@purinmania 今回の話は、桜ちゃんの静かな愛を感じます。桜ちゃんにとっても、和美ちゃんは可愛い存在なんですね。
コメントを書かれて、気がついた。今回は変態さがない。単純に芽生を可愛いと書いてしまっている。
だって、可愛かったから。誕生日の日だけ、あの毒舌の芽生が、可愛かったから。
相手を可愛いと感じながらするあーんはどういう感覚だろう?
書くために、試してみたくなった。今なら絶対芽生を可愛いと感じる。今なら復讐心もなく、芽生を甘やかすような気持ちであーんができる。きちんとした百合シーンを書くために、一度ぐらい、そんな甘い時間があったっていい。
それで、芽生にプリンを食べさせる側をやってみた。
そうしたら、芽生がやたら甘ったるい顔でプリンを食べるから、守ってあげたいような気分になった。いつものマウンティング女子の気負いがまったく無かった。まるで私に存在を預けるような雰囲気を出すから、芽生の身体が、とてもやわらかそうに見えた。
どうしてこんなに芽生は、やわらかそうなんだろう。
かわいい……。
きっと、この芽生がもっとやわらかかった子供の頃、芽生のお母さんやお父さんは、感じたのではないだろうか。なんてやわらかいのだろうと。赤ちゃんの芽生はどれだけやわらかかっただろう。私が芽生のお母さんだったら、こんなにやわらかい命が生まれてきてくれた、その誕生日を心から喜んで、抱きしめて。頬にキスをして。
誕生日。生まれてきてくれた日。
誰かの誕生日を特別に感じることは、まずなかった。高校時代に好きだった子の誕生日以外は。
もちろん家族の誕生日は祝ってきたし、特別だと思っていたが、それは「行事」としてだった。
私にとっての特別な誕生日は、彼女のだけだった。高校の時に「気になる」を越えて強い感情を抱いてしまった同級生。誰かの誕生日を、祝いの義務を行う日ではなく、奇跡の日だと感じ、その感覚に驚いたのは、彼女の誕生日だけだった。
芽生のことを恋愛感情で好きなわけではない。そういうわけではない。
でも、芽生の誕生日を、家族みたいに当然のように祝えることを、あの日、特別だと感じた。
私はあの日、「行事」としてではなく、私自身の特別な日として、私自身の体験として、感じていた。芽生の誕生日を。
プリンを食べさせながら。
芽生が、やわらかい芽生に戻って見えた日。
急に芽生がひな鳥か何かみたいに見えてきて。私のシチューをあんなに喜んでくれて。プリンをあんなふうに――。
ただの幸福感が、まじりけのない幸福感が、私を包んでいた。
「プリンのじかん」の下書きページを開いても、全く、芽生を変態にする気にならなかった。
特別な誕生日。
芽生が、あんなことを言ったからかもしれない。誕生日が同じ人をカレシにしないでとか。
あんな顔で、そんな事を言われたら、芽生の事を好きでもなんでもなくたって、九月二日を空けておきたくなる。
よく考えたら、誰かとこんなふうに、どのプリンが美味しいとか、そんな話をして一緒にいられる機会は、もうないのかもしれない。みんながそれこそカレシとやらを見つけて、優先するようになったら。
私が恋人と過ごすようになることなんて、あるのかな。
もし、私が、女性の恋人をみつけたとして、それを知った芽生は、私とずっとルームシェアしてきたことを、どう思うのだろう。
私が、そうかもしれない、と知らせた時点で、芽生が今みたいに私のそばにいる時間は、まったく無くなるのかもしれない。
少なくとも、あんなふうに、プリンあーん、みたいなことはしなくなるだろう。
――そういう人だったの。ごめん、そういうことだったら、一緒にとか、住めないわ。さすがに抵抗ある。
そんなふうに言われてしまうかもしれないし。
――あおいとは、これからも友達だよ。でも、ちょっとこういうのは、ほらね。わたしがやってたことだから、ごめんだけど。
そんな、気を使った言い方をされるかもしれない。
それを思うと、何も知らずに、まるで恋人みたいに、プリンを食べさせあうような時間は、本当に限定的なもので。お友達と仲のよかった一番いい季節として、あとから恋しくなるのかもしれない。
大事にしたい。プリンの時間を、大事にしたい。
小説を書く原動力って、私の場合、完全に復讐なんだけど。復讐以外には、まぁ、満たされない、何かだ。何かは……何かだ。孤独と性欲を混ぜ合わせたもの。それに怒りが合わさった時に、復讐のパンチとして繰り出す。これが基本のスタンスだ。
復讐じゃなくなったプリン小説って書き続けられるのかな。
お局小説のほうは、小林まどかが現役バリバリのクソお局でしかないから、どんどん増えていくだろうけど。
六十五話の、小林をただただ変態として書き殴るだけの小説。目次を自分でこう眺めてみても、ずらーっと並んだ話に怨念をかんじる。
復讐のパンチの効いていない溶けた最新話にも、かわらずコメントをつけてくれている――プリンマニアさん。静かな愛を感じます、か。プリンマニアさんは、どんな愛情を持つ人なんだろう。とりあえず、返信した。
いつもありがとうございます。たまにはこういう逆転もいいかと思いました。
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