第12話 お局小説を読まれたり
小説投稿サイトには、書くための管理画面があって、「ワークスペース」と名付けられている。
ワークスペースに行く前に、私はトップ画面を確認する。
運営から「あなたの小説、エロすぎませんかね、修正しろや? 削除すんぞゴルァ」という連絡が来たとき、トップ画面を見ていないと気づけない、と誰かが書いていたからだ。
うん。まだ、大丈夫。
サイト上部の鈴のマークに赤い点がついているのに気が付いた。
ん?
誰だろう……唯一ハートを入れてくれるプリンマニアさんは、もうプリン小説の最新話にコメントし終わっているし。
ハートがついたり、コメントがついたり、レビューがついたりすると、鈴のマークに赤い点がつく。
鈴のマーククリックで、通知の帯が表示される。
帯が二つ、増えていた。
「エピソードに応援」の帯が、ひとつ。これは誰かがハートを入れた時の通知だ。……珍しく、プリンマニアさんが、お局小説の最新話にハートを入れていた。
あれ? プリンマニアさん、プリン小説のほうしか読んでいないと思っていたけど、レッスン★シックスティファイブにして、初めてお局小説の最新話にハート……?
もしかして、ハートは入れていなかったけど、いままでも読んでくれていたのかな。
なんだか嬉しくなる。あんなくだらない小説まで、読んでくれているのか……感謝しかない。
ちょうど書いている最中だったのか、もういちど見ると、鈴のマークにまた赤点がつき、プリンマニアさんからの応援コメントの通知が追加されていた。
――爪楊枝、やばいです! 短くてやばい! ゚+o。ズッキュ―(*゚д゚*)―ン!o+゚
短くてやばい……?
爪楊枝の短さに萌えた? わからん。謎すぎる。プリンマニアさん、結構レアだよな。まぁ、何に萌えるかは人それぞれだしな。対象が人じゃなくて爪楊枝っていうのも、アリなのか。喜んでもらえたなら光栄です。
返事……どうしよう。
――こっちも読んでくださっていたんですね、ありがとうございます。
一番うれしかったのがそれだから、あまり追及するのもどうかと思う爪楊枝萌えについては触れずに、私は一番伝えたい気持ちを返信した。
もう一つの帯は、「あなたの作品をフォロー」の帯だった。ブックマークをつけてくれたということだ。
みたことのない人だった。
@syakaijinyurilove――なんて読むんだこれ、社会人百合ラブ?
私は社会人百合ラブさんのページに飛んだ。
じぶんも、社会人百合が好きだからだ。
このサイトは、相手が、どの作品にブックマークをつけていて、誰をフォローしているのか、見ることができる。
新しい人からブックマークされたり、ハートやコメントを貰ったりすると、私はその人のページを見に行く。私の好みの作品を書いているかもしれない。書いてある小説をすぐに全部は読めない、でもおそらく、共通の感覚、好きなものが同じ、何かがある。私の書いたものにハートを送るということは、私がハートを送りたくなるような、同じ何かを心に抱いていて、作品にしている可能性があるのだ。好みの作品とか、そういうものに出会えるかもしれないのだ。
読み専さんなら、私の好きなタイプの作品をブックマークに入れているかもしれない。同じ作品を追いかける仲間になれるかもしれない。
だから。
何か痕跡を残してくれた人のページを、一度は、見に行くようにしている。その日のうちに見る場合もあるし、一か月くらいしてからの事もあるけど。
社会人百合ラブさんは、小説を書いていた。
案の定、百合だった。百合、ガールズラブ、社会人、のタグが入っている。
ふんふん。キャッチコピーは……。
「あなたのメモ紙になりたい」。
タイトルは、「新人のくせに生意気なあなた」、だった。
小説の紹介文には、「生意気なのに、かわいいあなた。私のミスをかぶせてごめんね。謝りたい。ひれ伏したい。いじめたい、いじりたおしたい」、と書いてある。
うっわ。こいつ。こじらせてるなー。
心の中でさけびかけて、思いとどまった。
いやいや、作品を作り出す人への敬意は、忘れてはならない。
作品と、書いている人の中身が同じとは限らない。鬼畜な内容を書いていながら、中身が無害で、すっごい優しい人だったりすることもあるわけだから。私だってまどか先輩を爪楊枝でなぞりたいとか全然思ったことないし。
そもそも、こじらせてるんだったら、それはそれでいいわけだ。こじらせてるヤツが書いたもののほうが、面白いし。共感するし……。
こういうのを好む人だから、私のお局小説が何か気になってくれたんだろうな。最新話、ワードがかなり被ってる。
もしかして、メモ紙とかお局とかで検索して、読みにきたのかもしれない。
メモ紙になりたい? 爪楊枝じゃなくてボールペンで、身体をなぞるような話かな?
話、かぶってないかな。私、盗作とか言われちゃわないかな。大丈夫か?
不安になったので、その日のうちに、読んだ。
特にボールペンで相手の身体をつつくような、そういう描写は見られなかった。
ひたすら、可愛い後輩に、抱えきれないほどの仕事を与えては手伝い、覚えきれない内容を口頭で伝えてはメモをすることを禁止し、何度でも私に聞いてこいといい、どうにかして関係性を近くしようとする、必死の先輩の努力が描かれていた。
あ、ごめんなさい。私の書くものより、想像以上にピュアでした……。
私は社会人百合ラブさんの作品にブックマークを入れた。
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