第6話 作者の反応を見たり


「投稿した応援コメントに作者から返信がありました」


 メールに通知が入ってくる。

 どきどきしながらサイトを開く。


 ――いつも、ありがとうございます。ペロペロ、可愛かったですか。和美は本質的に変態ですが、これからも応援よろしくお願いします。


 くぁー!!


 和美は本質的に変態。


 なんだか、自分自身を変態扱いされたような気がする。でも、それが、イイ。


 おつぼねぷりんさん自体は、じぶんの描いた「本質的に変態な和美」について、どう思っているのだろうか。っていうか、おつぼねぷりんさんって、変態なのかな。


 百合しか書いてないけど、女の子が好きなんだろうか。そもそも、女性なんだろうか。


 同性愛者は変態じゃない。


 同性を好きになるだけで変態扱いされたら、わたしは怒り狂うだろう。

 どういう相手を好きになるかが違うだけで、変態扱いされてはたまらない。好きになる相手の性別以外は、異性愛者と何も変わらない。

 同性を好きでも、エロいことに何の興味もない人だっているし。


 ただ――わたしは変態だ。

 女の子を好きになるからじゃなくて、多分相手が異性だったとしても、どうせ変態だった。男性が好きだったら、男性に対して変態なことを考えていただろう。


 性的指向こいするあいては女性で、それとはまったく別件として、性的嗜好エロのこのみはやや変態寄り、ただそれだけの話なのだ。

 混同されては困る。


 大事なことだから、もう一度言おう。


 好きなのがあおい女性、これが性的指向で。

 好きな相手にプリンを食べさせてハアハア――これが性的嗜好だ。


 大事なことだから、三回言おう。


 わたしは変態だが、それはプリンを食べるあおいにズッギューンしていることをもって変態なのであって、@purinmaniaプリンマニアは性的嗜好をあらわした名である。

 変態なのと、女性を好きなこととは、まったく関係がない。


 おつぼねぷりんさんは、どういう人なんだろう。


 書くものと、本人が、同じとは限らない。腐女子がBLを描くように、百合オタ男子が百合を描くように、現実とは別のシチュエーションに本音を乗せて、心の真実を描いている人はたくさんいる。

 おつぼねぷりんさんは、何となく女性だと考えてきた。でも本当は、オッサンかもしれない。小学生女子が書いていてもおかしくないし、定年後のおじいちゃんが書いているのかもしれないのだ。


 それでも、わたしはおつぼねぷりんさんが、好きだ。


 もし、おつぼねぷりんさんが、異性にしか興味のない、しわっしわの婆さんだったとしても。

 三十六話もプリンの話を書く婆さんなんて、可愛いじゃないか。六人ぐらい子供を産んで孫までいたとしてもだ。


 もしかして、おつぼねぷりんさんは、とても純粋なオトメの心を持っているのではないだろうか。


 おつぼねぷりんの書くエロ小説は、わたしには、とても純粋に感じられる。


 彼女は、これを、「エロ小説」だと言っている。

 近況ノートに、書いてあったのだ。

「私のエロプリン小説が、運営に消されたらどうしよう」と。


 可愛くない? ねぇ、おつぼねぷりん、可愛くない?


 プリン食べてるだけの小説で、恥じらっておびえてる感じ、可愛くない?

 なんでこれが運営に消されると思うんだよ、可愛くない?


 お局小説のほう、あっちは、たしかに、うん、まぁ、あれだ。

 深い関係になっていらっしゃる。和美よりもお局のマサコさんの方が明らかに変態だし。具体的すぎるし。消されるならあっちだと思う。


 でも、わたしのおつぼねぷりんさんは、プリン小説のほうも、ちゃんと「エロ小説」だと認識しているのだ。


 プリンを食べてるだけなのに。


 おつぼねぷりんは、エロの本質をつかんでいる。具体的な行為が、エロいわけではないのだ。ただプリンを食べるだけでも、好きな相手だからエロいんだ、あおいだからエロい。そういう感覚をつかんでいるのだ。


 文は拙くても、プリンを食べるという行為に、私と同じように官能を感じているという、そういう事だ。


 ふと、おつぼねぷりんの小説を読み続けることに、不安を感じた。

 ファンの心理越えてしまってるかな、これ。


 ただ作者の書いたものを、読者として楽しむ。おそらく、それが、作者の望む読者像だ。読者に、「作者ってあんなかな、こんなかな、げへへへ」そんな目線を向けられるとか、嫌じゃないだろうか。


 最近のわたしは、おつぼねぷりんさんに対して、文章の中身だけではなくて、本人に対して――興味を抱きはじめてしまっている。


 おつぼねぷりんさんが、それを感じていたら、どうしよう。

 キモいって思われていたら、どうしよう。


 応援コメントには、何回もコメントを残してきた。

 美味しそうなプリンですね。

 今日もプリンが食べたくなりました。

 唇とプリンの親和性、イイ!

 二人の関係性は最高です。


 でも、一度だって、おつぼねぷりんさんそのものに、「あなたはどういう人なんですか」、そんな疑問をコメントで投げかけたことはなかった。


 失礼だからだ。


 それは、本当に失礼で、分をわきまえない行動だと思っているから、わたしは、おつぼねぷりんさんその人への興味はひた隠しにしたまま、文章に対するコメントだけを書き連ねてきた。


 でも――、わたしは、本当は、知りたい。

 おつぼねぷりんさんにも、スプーンをペロペロしたくなるような、そんな相手がいるのかを。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る