第5話 読者の反応を見たり
あ。
しまった。
私はパソコンの画面を見て、二度見して、それから三度見して、理解した。
やっちまった。
推敲する前の下書きを、「保存」を押したつもりで、「公開」してしまった。
下書き保存ボタンの隣に「公開」ボタンがある。そして、公開ボタンは青く目立っている。疲れていたり焦っていたりすると、うっかり目立つほう、公開ボタンを押してしまう。そんなことが、たまにある。
まぁ、別に後から加筆修正すればいいけど。
でも、スプーンペロペロは、消そうか迷っていたからな。公開を後悔。ははははは。
メールに、通知が入ってくる。
「新しい応援コメントが1件あります」
きっと、あの人だ。毎回、話をアップするたびに、ハートを押してくれる人。
この人は、ほんとうに唯一、私のプリン小説にハートを押し続けてくれている人で、この人以外に読んで、いいと思ってくれている人がいるのか、私はわからない。
PV、ページビュー、と読むらしいが、どのくらいの人が見に来てくれたかを表す数字は、作者からは見られるようになっている。一応、三十六話の最新話にも、5PVついていた。今日、最新話をクリックしてくれた人は五人。そのうちの一人はきっとプリンマニアさんだろう。他の四人の感想はよくわからないけど、トップページから新着小説を探して、パッと見て、つまらんと思ってブラウザバックしたとか、そんな感じではなかろうか。
芽生への復讐心で目が曇り、萌えも何も考えず、読んでくれる人が引くかも考えず、適当な更新をしてしまった……うしろめたさを感じながら、応援コメントを見る。案の定、プリンマニアさんだった。
――やっと、新しい展開ですね! どきどきしました。まさかのスプーンペロペロ……(笑)和美ちゃんかわいいです。和美ちゃんの切ない気持ちが伝わってきて、泣きそうになりました。この先どうなるのかな! 明日もプリンは食べるのかな? 次の更新が待ち遠しいです。
え。あんたマジかい。泣きそうになったんかい。切ない? 切ないシーンなんて書いたっけ?
私は自分の書いたものを読み直した。どう見ても芽生がいやらしげにスプーンに舌を伸ばしてペロペロしている描写しか見当たらない。
わざと芽生を変態にしたくてペロペロさせたのに、かわいい、だと……? いや芽生、あれは可愛い生き物じゃないから。外見はいいよ、カッコ可愛いよ。でも、もし芽生が私のスプーンを本当にペロペロしていたりしたら――。
そこまで考えて、私は自分の思考に蓋をした。体が熱くなって、芽生の顔を見られなくなってしまう、少しだけ、そんな気がしたからだった。
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