第3話 読んだり
わたしは、小説を読んでいる。
「書いたり、読んだり」しやすいサイトということで、その小説投稿サイトはにぎわっている。
わたしはそこに登録して、「読み専」、読む専用で書くことをしない人のことだ――、読み専として、何か月も、暇な時間に人が投稿したネット小説を読んでいた。
ブックマークをつけたり、フォローをしたりしている人が、何人かいる。
その中の一人、「おつぼねぷりん」さん。
この人は、とても更新速度が速いので、メールアドレスに良く「更新しました」という通知が入ってくる。
なんで、おつぼねぷりんなんて名前にしたんだろ?
その疑問は、初めて読んだとき、すぐに分かった。
会社のお局様との百合小説と、同居する友人とプリンを食べる百合小説、これが彼女のメイン小説だったからだ。
もともと、百合なのはわかっていた。
検索画面で「百合」と打って出てきたのだから。
わたしの目を惹きつけたのは、キャッチコピーだった。
「一緒にプリンをたべよう。甘く苦しいとろけるプリンを」
その下に、小説の紹介文が書いてある。
「ルームメイトの唇が、プリンを欲して甘く誘う。私のプリンは美味しい? スプーンひとさじであなたと繋がる、なんて甘美なプリンの時間」
ルームメイトにプリンを食べさせる百合……だと……?
……ドンピシャ、だった。
プリンはわたしの大好物だ。だからよく作る。こだわりの固いプリンとかじゃない。いや、そういうのも作るんだけど、要はあの、水分を多く含んだプルプル揺れるなまめかしいプリンがいいのだ。あれが、あおいの唇に触れる瞬間が好きなのだ。
だから、わたしのプリンには、プルプル感を作り出すため、ゼラチンが入っている。
今日もわたしは、ルームメイトのあおいの唇に、わたしのプリンを流し込んだ。
プリンと、あおいの唇と、どっちが柔らかいだろう。
プリンと、あおいの唇と。触ったら吸い付いてくるような感触なのは、どっちだろう。
わたしは、見ているだけでいい。あおいの柔らかい、リップを塗ったばかりのような唇が、わたしの差し出したプリンにほんの一瞬ぷるんと触れる瞬間を、ただじっと見ているだけでいい。
そして、その姿を見ながら、わたしはプリンを口にする。わたしの唇に触れる瞬間、プリンはあおいの唇になって、わたしを蕩けさせる。
プリンを食べながら、食べさせながら、あおいが見ている目の前で、わたしはもう何度も想像の中で、あおいのプリンを味わっていた。
想像に過ぎないけれど、見つめ合ったままでその想像をしながらプリンに口付ける、あの背徳的な感覚は、わたしを虜にしてしまっていた。
その感覚を、まさか、文にしようとする人がいるとは思わなかった。
おつぼねぷりんさんの文を見た時、まず思ったのは、「ヘッタクソな文だなぁ」、だった。
私が、って単語、何回つかってるんだよ。ってかそこ二重敬語だぞ。
一人称になったり三人称になったり、目まぐるしいな、眩暈がするよ。
何回プリン食ってんだよ。
でも。
でも。
ただ一つ、おつぼねぷりんには、評価できるところがある。
プリンにこだわり倒しているのだ。
普通だったら飽きるから、三十五話も毎回毎回プリン食べない。
他のものに浮気する。
彼女は、そう、彼女は、三十五話も、続けて、「プリンを食べるだけ」の話を書いているのだ。
これは、わたし、読み専としてのネームも「
飽きるぞ、読者。
いいかげんプリンから離れろよ。
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