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 それから私と清水さんは普通の恋人たちと同じようにデートをしてキスをして身体を重ねた。

 なくなってしまえばいいのに、と願った仕事がいやじゃなくなった。清水さんの顔を一目でも見たい気持ちのほうが、仕事がいやな気持ちよりも勝った。


 時々ふと、私はこんな普通の幸せを手に入れてよいのだろうか、と考えることがある。

 清水さんが「幸せだよ」と私にささやくたびに、罪悪感に襲われる。彼女のような純粋無垢な女の子を騙している悪人だと自分のことを思ってしまう。


 私だって清水さんと一緒にいることは幸せだ——ただ、彼女が好きなのは作られた私の顔と、社会人としてまっとうに働いている田中美月なのであって、水商売で男を騙して金を巻き上げたり、自殺未遂を図って救急車に運ばれるような私ではない。


 何かの拍子に過去のみじめな私になっても、清水さんは受け入れてくれるのだろうか。

 そもそも、結婚適齢期で異性とも交際ができる彼女は——これ以上考えるのはやめよう。

 


 私たちは今日もお酒を飲んだ後に、街中を歩いている普通のカップルたちと同じように、裸になってセックスをした。情事を終えた後、ゆっくりと彼女は私の頬をなでながら、ほほ笑んでいる。「きれいな顔をしていますね」と付き合って半年経っても惚れ惚れとしているのだから、不思議だ。


「見飽きることはないの~?」

「ありません。見るたびに発見することがあるんですよ。よく見ると鼻の脇にニキビをつぶした跡があったり」

「それ、レーザー治療している最中なんだけど! 見ないでほしいな~」

「ふふ、何もしなくても美月はきれいなのに」


 この顔が美容整形によって維持されていると知っても同じことが言えるのだろうか。


 唇に唇を重ねるだけのキスをして、無言で清水さんは私の右横に寝そべった。彼女は私の首元を撫でて、また微笑む。

 疲れているからかいつもより覇気がない彼女が妙に不気味だった。


「いつまでたっても、美月さんのことを手に入れられていない気がするんです。あなたのことが大好きなのに、なぜか寂しいんです」

「清水さんにそう思われていることが寂しいです……。私も大好きなのにい」

「あはは。そうですよね。ごめんなさい」


 私は清水さんのことが好きだ。

 その気持ちに嘘偽りはないけれど――好きだからこそ、過去のつまらない話や着飾っていない自分を見せることはできない。

 萌花みたいに離れられてしまうかもしれないと思うと、打ち明ける気になれないのだ。


「いつまでも一緒にいたいですねっ」


 満面の笑みを繕って言うと彼女は合わせた視線をそらして、困ったようにほほ笑んだ。

 

「ふふ、そうですね」


 清水さんのことをゆっくりと抱き寄せて、ぎゅうっと力強く抱きしめた。

 ふわりと甘ったるいシャンプーの香りが鼻孔をくすぐった。


「私のことを嫌いにならないでくださいねっ」

「何言ってるんですか。嫌いになんてなるわけないじゃないですか」


 これから先も、私のことを好きでいてくれますように。

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つまらない恋 橘セロリ @serori_0411

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