joy to the world
ハレルヤ!
街角で聖歌隊が歌う。
クリスマスがやってくる。
雪が降るような厚い雲に覆われて、体の芯から冷える。
「ビル!」
呼びかけられて、ふと立ち止まる。
瞳をキラキラとさせて、両手に大きな紙袋を抱えたディランが、小走りで駆け寄ってくる。
「お待たせ。マーケットがすごく混んでて」
荷物を片方預かった。中には好みのスパークリングとチーズ、硬めのパンが入っている。
「夜更かししてしまいそうだな」
ディランはずっとにこにこと微笑んでいた。
「クリスマスは特別な日だからね」
最近まで俺は入院をしていて、どういうわけか、ふた月程記憶が定かでない。
医師からは高熱があったせいだろうと言われたけれど、入院記録を確認すると、ひと月もなく、なにか訳ありなのだろうなと、思い当たるのはドルフと会った以降だったこともあり、世の中は知らなくてもいいことはあるとまるっと飲み込んでいる。
この世界は情報に溢れすぎていて、息苦しくなる。自分のことでさえ。
ディランと出会ってからは、彼が太陽のように照らしてくれる。
もしも、あの忌々しい流行り病がなかったならば、
もしも、彼が音楽にも、”ウィリアム“にも興味がなかったなら
どれも何かの導きで、今この時があるのだと思うと、ほんの一瞬も取り逃したくない。
ディランの頬を指の背で撫でる。
目をパチパチと、はっきり瞬きをして、耳が赤らんでくる。
「どうしたの、くすぐったい」
ツリーのモニュメントとライトがチカチカ輝いて、星が流れるように見える。
街中の人が浮足だっていて、どの家族も荷物でいっぱいだ。
街の端にある教会の鐘が鳴る。
ディランが俺の手を握る。かつてのように手袋越しではない、手と手の感触にくすぐったく感じる。
確かに、ここに我々がいる。
それだけでいい。
「ディラン。愛してる」
鐘が鳴る。
祝福するように、鐘が鳴る。
了
change the world arenn @insanity01
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