large rabbit-hole

鬱蒼とした木々

木葉の隙間からわずかに光がこぼれ落ち

そよ風が葉をゆらす音のみで、動物などがいる気配はない。

森の奥に木から白い窓掛けが地面まで垂れ落ちている。両端は短布で括られていて、あたかもどこかの内装を模しているようにも見える。

奥は光が届かないようで、何も見えない。

それでも俺は静かに近づいていった。

足元に広がる苔から湧き出る水のにおいを感じる。

何も見えない。

しかしながら、此処にいる。

直感が告げた。

「コキノ」

この暗がりの中から風が吹いてきた。

「随分と待たせた。俺こそ、帽子屋のブランだ」

右膝をついて、胸に手をあてた。

聞こえるかどうかというほど小さな声が耳を掠める。

-  待ってゐた。

ぽたぽたと雨粒が降ってきた。

雫が頬から顎にそって流れゆく。

嗚呼、言葉にできない。


 左膝に顔をうずめた。

とてもじゃないが見せられないような顔をしているに違いない。

- 「私」と「貴方」は共に暮らし、共に歩んでいる。これほどのさいわひはない 

 コキノが微笑んでいるイメージが頭に過る。

俺も自然と口角が上がっているのを感じた。


 月から零れおちる涙の雫を集めて

上等な紅茶の葉と、一等品の器で茶を淹れる。

それは毎日の習慣であったし、当たり前のことだった。

葉から茶色の液がゆらりとお湯の下に流れゆく。

ぐるぐるまわって

流れに沿って

同じ場所をまわる

牡蠣も海象も紅鶴もいない

それでも我々には奇異なる國に違いない

一度たりとも会ったことのない「アリス」

好奇心から國にやってきた少女の気持ちが

少し理解できた。

 ふっと、息をもらして

俺は底しれぬ暗い兎穴に身を投じたのだった。


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