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僕たちは身長とほぼ同じ高さと両手を広げたくらいの胴回りがある大岩の横に座って休憩をしていた。その際にはビスケットと皮製の水筒に入った水を口にしながらエネルギーと水分を補給する。
この時になって気付いたことだけど、竜水晶による飢えと渇きを防ぐ効果には即効性がないみたい。直接、食べ物や飲み物を経口摂取した方が確実かつ強い満腹感があって、体力の回復も早い気がする。
竜水晶は持っているだけで自然と空腹感が解消される一方、今回みたいに急激にエネルギーを消費した場合は平常状態に戻るまで時間がかかる感じだ。
つまり竜水晶は空腹状態を回避するための最後の手段と考えて、出来る限り食事をする方が好ましいのだと思う。食欲の充足とは別に、食事の重要性が分かったのは怪我の功名だったかもしれない。
「……それにしても静かだなぁ」
人里から離れている上、今は近くを通る旅人などもいないのか、人為的な音はしない。そよ風に吹かれた木々の囁きや小鳥たちのさえずりだけが聞こえてくる。そして草の香りが優しく鼻をいたわり、深呼吸をすると涼しさが体の中に広がっていく。
まるで大自然のエネルギーを吸収して、癒されていくような感じさえする。
――うん、だいぶ体力が回復してきた。
十数分くらいしか休んでないけど、驚くほど楽になった。これならまたがんばって歩けそうだ。無理せずこまめに休憩を挟みながら進んだ方が結果的に効率がいいのかも。
そう考えると、トンモロ村からシアの城下町へ向かっていた時のように休み休み進むやり方は正解だったんだね。全くの偶然だけど。
「ミューリエ、僕はもう大丈夫だよ。またしばらく歩けると思う」
「そうか。では、そろそろ出発しよう」
僕たちは立ち上がり、試練の洞窟へ向けての歩みを再開させようとした。
でもまさにその時――っ!
「きゃああああああああぁーッ!」
不意にどこからか響いてくる声。どうやら女性の悲鳴のようだ。
位置は僕たちの進む道の先で、距離は結構近い。しかもかなり差し迫った危機に瀕している感じだ。状況は分からないけど、何かアクシデントのようなものがあったことには間違いなさそうだ。
「ミューリエ、行ってみよう!」
「承知した」
僕とミューリエは即座に街道の先へ向かって走り出した。
すると程なく前方に、走って逃げる女の子とそれを追いかける巨大な熊の姿を捉える。
女の子は黒で統一されたローブととんがり帽子、ブーツ、手袋などを身に纏っていた。その格好から考えると、おそらく魔法使いなのだろう。
髪は深い藍色のくせっ毛で、長さは腰の少し上くらい。それを黄色のリボンでひとつ結びにしている。また、髪と同じ色の瞳と白い肌をしていて、ミューリエとは違うタイプの美人さんというか、可愛らしい女の子といった印象だ。
見た感じ、年齢はミューリエより年下で僕よりも年上くらいかな。
一方、熊は体長二メートルを超え、刃物のように鋭い爪と牙が煌めいている。しかも丸太のような四本の脚は隆々としていて、爪だろうが牙だろうが体当たりだろうが、万が一にも攻撃をマトモに食らおうものなら即死してもおかしくない。
「誰か助けてぇ~!」
「ぐぉおおおおおぉーんっ!」
女の子の悲鳴と身の毛もよだつような熊の雄叫びが周囲にこだました。
彼女はこちらへ向かって必死に逃げてきている。ただ、熊との差はみるみる縮み、今にも追いつかれそうだ。
でももし魔法使いなら魔法で熊を追い払うことは出来ないのかな?
「きゃっ!」
ハラハラしながら見ていると、最悪の事態が起きてしまった! なんと女の子は足がもつれて転んでしまったのだ。
ついに彼女に追いついた熊はゆらりと上半身を持ち上げて二本足で立ち、両前足での攻撃態勢に入る。
――さて、どうする?
●なんとかして女の子を助ける……→6へ
https://kakuyomu.jp/works/16816927859763772966/episodes/16816927859764447887
●もうしばらく様子を見守る……→34へ
https://kakuyomu.jp/works/16816927859763772966/episodes/16816927859765803176
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