ミューリエと一緒に旅をすることになった僕は、今後に備えて武具や回復薬などの道具を買い揃えた。もっとも、僕にモンスターと戦う力がないのは変わらないから、もし戦闘になっても彼女を後方からサポートするくらいしか出来ないだろうけど。


 ――いや、戦いの邪魔になるから隅でおとなしくしてろって言われるかも。


 チンピラたちとの戦いを見た限り、彼女は中級から上級の冒険者と同じくらいに強そうだもんなぁ。実際に冒険者としてギルドに登録してる可能性もあるし。彼女はそのことについて何も話してくれてないから、いずれ訊いてみようとは思ってる。


 いずれにしても、相変わらず僕には何も出来ないのが情けない……。


 というわけで、戦力にならない今の僕は防御力と回避を重視しようということで、旅の服の上に革製の胸当てを装備。それと重い剣とは別に護身用のナイフをサブウエポンとして腰に差している。


 体力とスピードと防御のバランスを考えると、それらが最適なチョイスのはず。



 敵を倒すよりも自分が倒されない――。



 それが戦闘に長けているミューリエと旅をする上での当面の方針だ。それに戦いが嫌いな僕には、その方が性に合っていると思うし。


 やっぱり僕は……なるべく戦いたくないから……。



 準備が整った翌日、僕とミューリエはシアの城下町を出発して西方街道を歩いていた。


 次の目的地は『試練の洞窟』と呼ばれているところ。村長様の話によると、その場所では魔王の城へ辿り着くために必要な何かが手に入るらしい。旅立ちの前、シアの次にはそこへ行くように言われていたんだ。


 だからとりあえずはその言葉に従って進もうと思っている。ほかに当てもないしね……。


「はぁ……はぁ……」


 足が疲れてきて、呼吸も苦しい。気付くと肩で息をしている。


 一歩一歩が重たくて、足を踏み出すのが嫌になってくる。抵抗感があるというか、全身の筋肉がこれ以上の運動を拒否している感覚。でも脳だけはそれに反発して、無理矢理に『進め』と命令を出している。


 せめて戦い以外の時にはミューリエに迷惑かけたくないという意識があるから……。


 俯き加減で歩いていく僕の視界には、やや均された土の道が広がり、その景色がずっと続いている。周りがどうなっているかを気にする余裕はない。ただ、草の匂いや涼しい風だけは感じられている。


 西方街道はトンモロ村とシアの城下町を結んでいる山道と比べれば平坦だし、多くの人が通るからか少しは歩きやすい。だけどここまで全く休憩を挟んでいないから、体力のない僕にはかなりキツイ。


 山道の時は自分のペースで休み休み進んでいたからなぁ。もちろん、だからこそシアへの到着まで時間もかかったわけだけど。


「町を出てから、たかだか三時間だぞ? アレスは体力がないのだな……」


 顔を上げてみると、道の少し前方ではミューリエが立ち止まってこちらを見ていた。


 涼しげな瞳と周囲への警戒を怠らない空気。息は全然切れていないし、疲れの色もない。シアの城下町を出発した時と表情が全く変わらないんじゃないだろうか。


 さすがというか、旅をしている人ならそれくらいの体力があるのが普通なんだろうけど。



 ――さて、彼女に対してどう返事をしようか?



●ごめんね、足手まといになっちゃって……→19へ

https://kakuyomu.jp/works/16816927859763772966/episodes/16816927859765173442


●まだまだ大丈夫だよ!……→12へ

https://kakuyomu.jp/works/16816927859763772966/episodes/16816927859764681269


●もうダメだ、少し休もうよ……→27へ

https://kakuyomu.jp/works/16816927859763772966/episodes/16816927859765567183


 

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