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 きっとミューリエは僕の歩みが遅いから、呆れ果てていることだろう。申し訳なくて泣きそうになってくる。胸の奥がキュッと痛む。迷惑ばかりかけてしまって情けない。


 僕なりにがんばっているつもりだけど、結果が伴わないんじゃダメだよね……。


「ご、ごめんね……足手まといになっちゃって……」


 自然と瞳が潤んでくる。堪えようとしても勝手に悲しい想いが湧き上がってくる。


 ただでさえこうして情けない姿を晒しているのに、涙なんて流したら愛想を尽かされるんじゃないだろうか。次の町で見捨てられるんじゃないだろうか?


「――っ! バカものッ!」


「痛っ!」


 直後、僕はミューリエから頭のてっぺんにゲンコツを食らった。


 力を加減していないっぽくて、目から火花が散るくらいに痛い。見た目はか弱い女の子なのに、そこからは想像もつかないような強烈な腕力だ。


 こんなコトを言ったら怒られるかもだけど、書物で読んだ『オーガ』とかいう怪力のモンスターくらいに力があるんじゃなかろうか?


 いずれにしても今のゲンコツは痛すぎるから、少しは加減してほしいぃ……。


 あぁ、ちょっぴり涙も滲んできた。悲しい気持ちによる涙はどこかへ吹き飛んで、痛みによる涙が涙腺を支配している。


 僕は頭を擦りながら顔を上げると、そこではミューリエが柳眉を逆立てて僕を真っ直ぐに見つめていた。


 やっぱり僕の歩くスピードが遅いから怒っ――


「私はアレスのことを足手まといなどとは思っておらん! それなのに自分からそういうことを言うな!」


「っ!?」


「なぜ自分を卑下する? そういうところは気に入らんぞ! アレスはアレスのペースで歩けばよい! 私はアレスの仲間なのだぞッ?」


「仲……間……」


「そうだ、仲間だ! だから歩むスピードくらい合わせてやる! 疲れたのなら休め! 何の遠慮がいるッ?」


 ミューリエは本気で怒っているみたいだった。でも瞳の奥に優しさの温もりも感じる。


 そうか、彼女は僕の情けなさに腹を立てたんじゃなくて、彼女に対する他人行儀な接し方が気に食わなかったんだ……。



 仲間……か……。



 そっか、僕たちは仲間……なんだよね……。


 その言葉を頭の中で反芻するほど、胸の奥が炎でも灯ったかのように熱くなってくる。活力が体の中から噴き上がってくる。疲れなんかどこかへ吹き飛んでいく。


 そうだ、今の僕はひとりじゃない。ひとりじゃないんだ! そのことがこんなにも嬉しくて、素敵なことだったなんて……。


 もっと仲間を頼っていいのかもしれない。ひとりでがんばることも大切だけど、時には誰かと一緒に歩むのもがんばり方のひとつなのかも。


 どうしても傭兵たちとの一件が頭の隅にあるから裏切られる怖さや不安はあるけど、その時はその時だ。それにもし相手に思惑みたいなものがあったとしても、その瞬間においての想いは決して偽りなんかじゃない。想いは確実にそこにある。



 ――だから僕はミューリエを信じる。


 あの瞳と言葉、そしてゲンコツの痛さ。真っ直ぐで無垢で、僕の心を揺れ動かした想いを信じる。



 僕は決意を胸に秘め、満面の笑みでミューリエを見つめる。


「うん、ミューリエ! これからは気をつけるよっ!」


「叱られたのに、やけに嬉しそうだな? ゲンコツの当たり所が悪かったか?」


「てはは、どうかな……? むしろ当たり所は良かったんじゃないかな? 僕、すごくいい気分だし」


「……叩かれて気分が良いとは、変なヤツだ。まれにそういう趣向の持ち主もいるとは聞いたことがあるが、その感覚が私にはさっぱり分からん」


「それとは意味が違うんだけどな……。まぁ、いいけど」


「ふむ……」


「あのね、ミューリエ。僕もいつかキミに頼られるようになりたい。だから僕なりにがんばるね」


「っ!? ――あぁ! 期待しているぞ!」


 ミューリエは一瞬、キョトンとしていた。何を言われたのか、即座には理解できていなかった感じ。でもすぐに柔らかな瞳になって、力強く僕の肩を叩く。


 その後、僕たちは街道沿いにある大岩の横で休憩することにしたのだった。



 →37へ

https://kakuyomu.jp/works/16816927859763772966/episodes/16816927859765938895

 

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