最終話 近くなった二人と

 長年片想いしていた私たち。だけど今では、


「ちょっと優士、もう離れて……」

「嫌だ」


 近過ぎて、たまに困るくらいだ。愛する者が帰宅するなり、私に抱き付いて充電っぽいことをしている。

 こんなに甘えん坊になっちゃって……。

 まあ、私も人のこと言えないけどね。


「ご飯、食べようよ~。お腹空いたでしょ? 今日は優士が大好きな、肉じゃがだよー? デザートにチーズケーキもあるよー?」

「んー……。食べたいけど、もう少しだけこのまま……」

「あ!」


 そのとき私の中で、あるものが動いた。


「ど、どうしたひとみ!」


 驚いた優士は、パッと私から離れた。


「今、蹴った」

「おお……!」


 優士は愛しそうに、私のお腹を撫でる。あのとき片想いに苦しんでいた私が、この光景を見たら嬉し泣きするだろう。


「いつまでも優士が離れないから、この子がヤキモチで蹴ったんだよ」

「そうか?」

「ふふっ」


 近岡家に来てくれた、新しい命を間にして私たちは笑い合う。


「これからもよろしく、お母さん」

「よろしくね、お父さん」

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近く見えて遠い、遠く見えて近い。 卯野ましろ @unm46

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