第7話息子と私

「今空港に送って行ったよ。」

体調を聞いた後、息子の様子を話した。

今年で卒業なので就活で移動している。

コロナなので検査しながらの移動だ。

昔から医者になれと私に言っていたので、孫がそれに近づいていくことだけが母の楽しみだろう。

もし自分が死んだらいつでも検体になると頓珍漢な事を言っている。

事情で外に働きに出られなかった私は息子を教育することに決めた。

中学の終わりまで勉強を見ていたが反抗期で塾に託した。

「医者になるまでに生きとかないと。」

そういうと笑った。

「これからコーヒーとパンで朝ごはん。」

「食欲があるみたいで良かった。」

つい気が緩んで離してしまう。

いとこのことだ。

「そうちゃんが癌で死んだ時痛み止めが効かなかったから、痛いって言われた時が一番怖い。」

言ってからしまったと思った。

これで母は痛いと口に出すことができなくなる。 

そういう人だとわかっていたのに。

慌てて

「痛くなったら救急車だよ。」

と付け加える。

「大丈夫。そろそろ病院にも行くから。」

そうは言っていてもきっと母は行かないんだろう。

病院で拘束されるのを何より嫌っているので。

孫になら素直に話してくれるのかとも思う。

空港で降ろした後大粒の雪が降ってきた。

私の人生の中で結婚や出産、結納。

全て雪が降った。

何かが変わる合図なのかもしれない。

できれば良い合図でありますようにと願う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

母と私のこと 爪先 @tumasaki7890

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る