第9話 一年後

 一年後。


「おい、いつまでこたつでダラダラしてるんだ?」


「後ちょっとだけじゃ」


「そう言って、朝からずっとじゃねえか。せめて、自分の身は自分で守れるくらいは鍛えろよ」


「大丈夫なのじゃ。頼もしいお主が守ってくれるのじゃ。それに、強くなったら、お主に殺されてしまうしの。ふふふ」


「だからと言って、さすがに怠けすぎだろ?」


「最近、身体が重くてダルいのじゃ」


「太ったもんな」


「なっ、それは女子に禁句だと、前も言ったじゃろう。それに太ったのではない、体重が増えたのじゃ」


「どう違うんだよ!」


「分からんか。まあよい、みかん取ってくれたもれ」


「それくらい自分で取れ」


「むぅ。取ってくれても良いではないか」


「最近、お前はずっとゴロゴロして、俺はおまえの小間使いだ。いつまでこの生活続ける気だ?」


「一年待て」


「そんなに待てるかっ! 約束したじゃないかっ! 一緒にいろんな楽しいことしようって」


「妾はお主とおるだけで楽しいぞ? お主は違うのか?」


「そっ、そりゃ、楽しいけど」


「というわけで、一年待て」


「はあ(言ってもムダか……)。つーか、懐かしいな、そのセリフ『妾は鍛え直し、再度お主の前に立ちはだかろう』だっけか?」


「思えば、そのやり取りから始まったんじゃのう。妾とお主の関係は」


「ああ、色々あったけど、今じゃこうして二人で幸せに暮らしてるんだ。人生わからないもんだな」


「そうじゃのう。妾も幸せじゃ。そこで、もう一度言う。一年待て」


「なんだ、どうした、急に? もうおまえとは戦わないぞ」


「そうではない。一年後、お主は勇者としての役目を終えるのだっ」


「……そっ、そんな、まさか(勇者の役目は魔王を殺すこと……)」


「そう。その、まさかじゃ」


「まさかっ、おまえ、死ぬのかっ? 病気か?」


「確かに医者にはかかっておるが……」


「どうすれば助かる。俺に出来る事ならなんでもするぞっ!」


「なにを勘違いしておる」


「えっ?」


「一年後、そなたは勇者ではなくなる、そして――」


「…………(ごくり)」


「パパになるのじゃ!」


「パパ? 俺がパパ?」


「覚えがないとは言わせんぞ。いたいけな妾の身体を何度も蹂躙したのはお主ではないか」


「……………………」


「呆けてるでない。これからは一家の大黒柱として、妾とお腹の子を守ってくれたもれ」


「あっ、ああ、それはもちろんだ(俺がパパか……)」


「言ったじゃろう。太ったのではない、体重が増えたのじゃと」


「ああ、そういう意味だったのか……」


「ということで、妾はこの子のためにも安静にしてねばならんのだ。だから、みかん取ってくれたもれ。最近、酸っぱいものが欲しくて堪らんのじゃ」


「ほらよ。なんでもしてやるから、無理するなよ」


「ふふふなのじゃ。この調子で、一年待ってくれたもれ」


「ああ、今までで一番待ち遠しい一年だな」


 一年後。


 元気な赤ちゃんが生まれ、勇者はパパに、魔王はママになりました。

 そして、末永く幸せに暮らしました。


 めでたし、めでたし。










   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

 はじめましての方は、はじめまして。

 ご存じの方は、毎度ありがとうございます。

 まさキチと申します。


 最後までお読みいただきありがとうございますm(_ _)m

 お楽しみいただけましたら、ご支援いただけると嬉しいです!


【連載中】

『貸した魔力は【リボ払い】で強制徴収 〜用済みとパーティー追放された俺は、可愛いサポート妖精と一緒に取り立てた魔力を運用して最強を目指す。限界まで搾り取ってやるから地獄を見やがれ〜』

こちらの作品もお楽しみ下さい!


ツイッターやってます。

フォローお願いしますm(_ _)m

@MasakichiNovels


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【ボイコネライブ小説大賞受賞】勇者(男)だけど、魔王(女)が「一年待てば強くなるからそれまで待て」って言うから一年待ってみた 〜ポンコツ魔王とお人好し勇者のほのぼのラブコメストーリー〜 まさキチ @maskichi13

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ