第8話 クーデター

 ――30分後。


「おいっ、魔王、無事かっ!」


「勇者っ! なんで来たのじゃ!」


「急に、Z00M切るんじゃねえっ! 心配するだろうがっ!」


「勇者っ!」


「とりあえず、来る途中にジャマな奴は全部潰しておいた。後はそいつだけか?」


「ああ、反魔王軍の総大将じゃ。不届きにも簒奪を試みた輩じゃが、その腕は魔界で妾に次いで二番、いや、サボっていた妾よりも強いかもしれん。油断するでないぞ」


「ははっ、俺を誰だと思っている。魔王に圧勝する勇者だぞ」


「キサマが勇者か、魔王とまとめてその首――」


「うっせえ――(ザンッ!)」


「総大将を一撃……やはり、お主は強いのじゃ(ぽっ)」


「はあ、間に合って良かった」


「なっ、急に抱きしめるでないっ……まあ、悪い気はせんがのう……」


「顔が赤いぞ。大丈夫か?」


「こっ、これは違うのじゃ。大丈夫なのじゃ。とにかく、一度離さんか」


「クーデターか?」


「妾が人間界への侵攻を中断させたせいで不満を持っていた奴らが暴発したのじゃ」


「そうか……(俺が決断を先延ばしにしてたせいか)」


「それよりなんで来たのじゃっ?」


「なんでって……」


「ゲートは封鎖されておったのじゃろ? 勝手なことして、お主の立場が悪くなるであろう? 妾はそんな事望んでおらんぞよ」


「構わねえよ。人間の世界にはうんざりしてたところだ。それに立場なんかより、おまえの方がずっと大切だ」


「そっ、そうであるか(妾のために……)」


「なあ、魔お――」「のう、勇し――」


「「ぷっ、あはは」」


「息がぴったりじゃのう。お主から先に話していいぞよ」


「こほん。なあ、魔王、俺から提案がある」


「なっ、なんじゃ」


「俺としては、魔族が人間界に攻めてこないのであれば争う気はない。魔王にその気はないのだろ?」


「もっ、もちろんじゃ。戦争なんかするより、お主と『まも森』やっている方が、ずっとずっと楽しいのじゃ」


「だったら、人類を守る勇者という存在も必要ないわけだ」


「そう……なるかの?」


「となると、俺とおまえ、共通の敵は反魔王軍だ」


「そうじゃの、しかし……」


「反魔王軍が人界に攻め入ることはあるか?」


「妾がゲートを開かん限り、それは不可能じゃ」


「だったら、俺が守る。俺がおまえとゲートを守る」


「よっ、よいのか?」


「散々こき使われた末、今じゃ腫れ物扱いだ。俺も人間界に未練はない」


「ひどいところじゃのう、人間界も」


「今回の件で、俺もよく分かった。俺はもう、おまえを殺すことは出来ない。おまえは俺の灰色の人生で、唯一の輝きだ」


「唯一の輝き……(ぽっ)」


「俺はおまえを愛している。どうか、俺と一緒になってくれないか?」


「勇者よっ」


「うわっ、急に抱きつくな(魔王、いい匂いだ)」


「えへへ、勇者、勇者、勇者だあ〜〜〜」


「おっ、おい」


「妾もずっと一人ぼっちだったのじゃ。孤高の魔王として、誰一人、気を許すことが出来なかったのじゃ」


「俺と同じだな。俺もずっと一人だった」


「そんなところに現れたのがお主じゃったのじゃ。魔王も殺せぬ優しい優しいお主だったのじゃ」


「ああ、一目見た時から、おまえを殺せないって思ったよ。自分と同じ孤独を感じ取ったからな」


「この数年間、お主と会える日だけを心の支えに生きておった」


「ああ、俺もだ」


「もう絶対に離さぬぞ」


「ああ、俺もおまえを絶対に離さない」


「勇者……」


「魔王……」


 ちゅっ。

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