第3話 暗い公民館の希望の光

 やがて、公民館の中に、大きな産声が響き渡った。


 新月の夜、ライフラインのストップした公民館で、快く協力してくれる人々に支えられながら、ガラケーの薄暗い明かりの中、新しい命が誕生した。

 その新鮮な産声に、公民館内の全ての人々が感嘆の声を上げ、自分の事のように喜んだ。

 照度を落としたままのガラケーが表示していた時刻は、奇遇にも感謝を思わせる数字が並ぶ、3時9分。

  

「おめでとうさん、こんな不安な中でよくぞ頑張ったな、威勢のいい男の子じゃよ」


 薄明りの中で老婆は満面の笑みを浮かべていた。


「ありがとうございます!あなた様のおかげです。あなた様に取り上げて頂いた、この新しい命に、是非あなた様のお名前を頂きたいのですが、お名前伺ってよろしいですか?」


 顔をクシャクシャにして泣き笑いしている新生児の父親となった男性が、また何度も頭を下げながら尋ねた。


「三沢 喜美子きみこいうて、男の子には名付け難いから止めときな」


 老婆が照れながら言った名前から、新生児の父親はすぐに、『希光人きみと』という名前を思い付いた。

 人々に支えられながら災害時に誕生した希望の光......という意味を込めて。

 産みの苦しみからやっと解放され、母親となった女性も喜んで同意し、命名した。


希光人きみとか、良い名前じゃ。この子の誕生は、災害に見舞われた人々の希望の光となるだろう」


 家や家族を失い、苦しい思いを共有している公民館の人々は、これから先の生活を考えると、まだまだ不安も課題も山積みだったが、この新しい命の誕生により、皆で協力し合って乗り越えて行こうという明るい心意気を取り戻した。

 こうして公民館の中では、長い年月の経験を重ねた年配者達を生き字引のように敬う気風が生まれ、いにしえの先人達の苦労に思いを馳せながら、彼らから享受した叡智や豆知識を不便な生活の中で役立てた。



       【 完 】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

暗闇の中の希望の光 ゆりえる @yurieru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ