第2話 歩み寄る避難所の人々
「ずっと昔、娘時代に見た映画の知識が役に立つか分からないが、誰もいないんじゃ仕方ないのぅ」
歩み寄って来たのは、かすれた声をした老女。
「それでも、助かります!お願いします!」
男は安堵し、相手に見えていないが、頭を何度も下げた。
「清潔な布とお湯を用意しておくれ」
清潔な布.....
ここにいる大多数は、発震後すぐ、津波の襲来と家の倒壊を恐れ、着の身着のまま逃げて来た。
その状況下で、持ち出し荷物を用意周到にして避難した者などいなさそうだった。
「家内が心配性で、非常時の持ち出し荷物まとめてあったんで。肌着でいいなら、何着か有るんで使って下さい」
壮年くらいの男性が近付き手渡した。
「ありがとうございます、使わせて頂きます」
手渡されたビニール袋に入っている肌着の感触を確かめ、頭を下げた妊婦の夫。
布は有ったが、お湯は......?
もちろん、カセットコンロなど持ち運んで来た者などいなかった。
「飲みかけで良いからペットボトルの水の余裕が有る人は、下着の中に入れて、人肌に近い温度にしてくれんかのぅ?」
ペットボトルの水は、公民館で非常時用の備蓄から1日1人500㏄1本が紙コップと共に配られていた。
人によっては、それで足りなかったり余ったりという個人差が有り、余っている人が多い事に期待した。
すると、飲みかけも含め8人ほど余っている水を持っている人々がいて、常温だったものを人肌近い温度になるように、下着の中に入れて温め出した。
そのように各自が準備している中、身重女性の陣痛の間隔が短くなり、苦しそうだった息遣いが更に荒くなって来た。
「懐中電灯など持っている人はおらんか......?」
今まで、夜の公民館で月明かり以外の明かりなど見た事が無かったが、無くて当たり前のつもりで、一応尋ねてみた老婆。
予想通り誰の声も返って来なかったが......
「懐中電灯の代わりになるか分からないのですが、ガラケーなので、まだ半分くらい電池が残ってます。いざという時の、離れて暮らす家族の安否を確かめる手段と思って、今時ガラケーとバカにされながらも使っていたんですが、暗闇でのお産の方がどんなにか大変ですから、是非使って下さい。少しでも光を長持ちさせるように照度をかなり下げましたが、どうしてもという時には照度の設定を変えますので、言って下さい」
携帯を差し出した中年女性。
「ありがとう、薄暗い明かりでも、無いのと有るのとじゃ全然違うから、助かるよ」
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