第12話
青い空に溶け込むような色合いの氷竜が滑空しているのを、ククールは目を細めて眺める。
そこに乗るのはフィン。それより低空を飛ぶのは同じく氷竜ランスーに乗るショーウン。
きゅい助もここぞとばかりに翼をめいっぱい広げて一緒に飛んでいた。
「おぉ。いい感じじゃねえか?」
そう太鼓判を押しているのはラッド。
フィンはすぐに新しいドラゴンに乗ることを決めていた。
今日はその相棒探しの日。城下町から北西にある村に騎竜隊御用達のドラゴンの育成牧場があり、そこにフィン、ラッドとショーウンに交じってククールときゅい助も訪れている。
慣れないパートナーの場合落下する危険が大きいため、低い位置で飛ぶ役割をしてくれているのがショーウンというわけだ。
新しい相棒候補を幾頭か乗ってみて、決まりそうなのが今乗っているスカイ。五歳の雄だそう。
オーロラが守ってくれたこの国を守り続けたいと。そう語ったフィンの目はディアンの言った通りに強い光を湛えていて、ドラゴニアの騎士道というものに一層ククールは興味を引かれる。
「あの、ラッドさん。ファルクスやアガカラス殿は結局黙秘してるんですか?」
しかし一方で、騎兵隊長が国を売っていたことが報じられた。
何故、かは明らかになっていないことも。
「アガカラス殿の家を捜索したら違法な医薬品が出てきたらしい。娘が難病でな。それ絡みだともみられているが。だとしたらそう早く話したほうが情状酌量の余地もあるだろうに。俺には理解できないな」
「そうでしたか」
「ファルクスの方はさ、ケンショウさんの見解なんだけど。こっちの、特に民間人の被害を押さえようとした節があるって」
「?そう、ですか」
こんなことしたくなかったんじゃないか。ククールにもその確信はある。しかし実際は、結局ドラゴニアを襲うことを選んだファルクス。せめて民間人は……そう思ったとしても、確かに不思議ではない。
「ハーブルノッドってさ。結構田舎なんだよな。人口が少ない。そこを狙ったのも、わざわざ沿岸部の村に姿を見せて避難の時間を稼いだのも。被害を押さえる意図からだろうって」
「…だとしても…」
大勢死んだことにかわりない。
許せと言われても、納得できない人間の方が多いだろう。
ククールとしては複雑だ。
ククールだって、大量殺戮兵器を作らされるところだった。
ファルクスと状況は変わらなかった。
そうしなくて済んだのは運が良かっただけ。
「そう。だとしても、なんだよ」
ラッドは溜め息を吐く。
いっそのこと、ゲスバーディやゲルリオのような下衆であったならスッキリもするのに。
「…ククールはさ、ファルクスとの血縁関係を確認したいとは思わないのか?」
「そうですね。ハッキリさせない方が、俺はスッキリします」
「それもそうか」
周りがどう言おうと、一緒に育ってない以上『兄弟』ではない。それがククールの結論だ。なまじ検査なんてしない方がいいと思っている。
少なくともフィンも、ククールとファルクスが兄弟ではないとしていた方が良いのではないか。
ククールはオーロラを失ったフィンを見た。
「ククール。スカイとフィン、どうだ?」
ラッドに感想を求められるククールであるが、まだまだドラゴンナイトというものは未知。
ククールにも分かることと言ったら、
「スカイってどことなくオーロラに似てますかね?色味は違うけど」
こんなことくらいのもの。
ククールが言えば、ここのドラゴンブリーダーが感嘆の声を上げる。
「すげえな兄ちゃん!ドラゴンナイトじゃねえのにわかんのか。スカイはな、オーロラの従弟にあたるんだよ。顔がそっくりだよな」
「へえ…」
似ていると思ったのは体のフォルムや飛び方であって顔ではない。というより、ククールから見たらドラゴンはみんなそっくりだ。それは黙っておく。
「けどあれで決まりかな。まあ決めるのはフィンだけど」
ラッドが手を挙げて合図すると、二騎ときゅい助がさっそうと降りてくる。
きゅいきゅい鳴くケツァルコアトルにドラゴンブリーダーは興味津々。
「…なあ、兄ちゃんあのケツァルコアトル譲ってくれねえかな。ブリーダーの名にかけて繁殖させてみせるぜ。なっ?!」
「……えぇと」
ぎらぎらした男の目に恐怖を覚えたのか、ククールの後ろに隠れるきゅい助。
「ダメです」
こんな風に懐かれればやはり可愛いものだ。
「番もいないのにどう繁殖すんですか」
「だよなあ…」
がくりと肩を落とす男であったがドラゴンへの愛は深いらしく降り立ったスカイに頬を舐められていた。
「で、どうするんだい?スカイに決まりかい?」
「はい」
「そうかい……。じゃあよ、騎竜隊の上官様と手続きしとくよ」
どこか寂しそうな男であるが、騎竜隊になるのはやはり名誉なことなのだろう。
「よかったなあ、スカイ。よかったよかった」
そう言っては目元を拭っていた。
「フィン、決まってよかったな」
「あぁ。……よろしくな、スカイ」
フィンが頬を撫でると嬉しそうにスカイはフィンの頬を舐める。
「ククールは編入したら年明けくらいに相棒を決めることになるぞ」
スカイの頭を撫でてやりながら、フィンがそう教えてくれる。フィンも士官学校の出身ということだ。
それよりも、相棒を決めるということは。
「きゅい助は……?」
ククールはきゅい助とスカイやランスーを見比べた。一瞬でククールは察する。
「……ちいせえのか」
見なくてもまぁ分かることではあるが、ショーウンが補足してくれた。
「五歳くらいじゃないと、ちょっと苦しいだろうな。大体、ケツァルコアトルはワイバーン種じゃないか?乗るの難しいぞ」
「……はい」
一体何がどう違うのか。分からないがククールは曖昧に返事をする。
「ま、それも学校でよく勉強して来いよ。ちなみに座学の試験は結構大変だぞ」
「…マジ?」
フィンの語る試験という単語に拒否反応が起こりそうだが、入学試験や編入試験は免除なのだから文句も言えない。
「そういえば、槍の実技は今年からチューエンさんが講師だって?」
このラッドの一言でフィンの顔付きが変わった。
「チューエン様の実技だぁ?!学生なのに贅沢すぎるだろ!!」
「俺のせいじゃないよね?!」
以前にも見たことのあるこの豹変。
ククールの胸ぐらを掴むが、それは理不尽というもの。
ラッドとショーウンが腹を抱えて笑っている。
「フィンさ、兄さんに手合わせしてほしいなら俺が頼もうか?」
笑いながら提案してくれるショーウン。
即答でぜひと言うかと思いきや、
「いや、緊張で武器が振れない気がする」
とまさかのお断りのセリフ。
「どっちだよ?!」
と叫んだ言葉は見事にラッドとぴったり。
束の間であることに違いはないのだろうが、今この瞬間は平和で何より。
終わり
空翔る竜の正義のカタチ 山桐未乃梨 @minori0
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