第91話 飾邪 7

釋法禁而聽請謁群臣賣官於上,取賞於下,是以利在私家而威在群臣。故民無盡力事主之心,而務為交於上。


 法律よりも裏側での頼み事を優先すれば、群臣は官位を売り買いして、下にそれをばらまいて儲けを出す。こうして臣下に権威が吸い取られ、民は君主に尽くそうとせず群臣のほうばかりを見るようになる。



民好上交,則貨財上流,而巧說者用。若是,則有功者愈少。奸臣愈進而材臣退,則主惑而不知所行,民聚而不知所道。此廢法禁、後功勞、舉名譽、聽請謁之失也。


 民がこうした上位の臣下との交流を好みはじめると、賄賂、おべっかに長けるものが上位につき始める。こうなってしまえば功績を挙げるものはますます少なくなる。奸臣ばかりがはびこり、仕事をなしえる臣下が減る。人主のもとにはデタラメな情報しか行き着かなくなり、何をなせばよいかもわからなくなる。そうすれば民も何をすれば良いのかわからなくなる。これが法律禁制を蔑ろとし、功績の褒賞を後回しとし、うわべの名誉を讃え、裏手で願い事を聞き始めたものの末路である。



凡敗法之人,必設詐托物以來親,又好言天下之所稀有。此暴君亂主之所以惑也,人臣賢佐之所以侵也。


 法を破らんとするものは嘘偽りを抱えて人主と親しいものに取り入り、その上でいかにも珍妙っぽい事柄を仕立て上げる。こうしたものの接近こそがいわゆる暴君亂主が道を踏み違える理由である。このとき賢臣や良き補佐官の権威が犯される。



故人臣稱伊尹、管仲之功,則背法飾智有資;稱比干、子胥之忠而見殺,則疾強諫有辭。夫上稱賢明,不稱暴亂,不可以取類,若是者禁。君子立法以為是也,今人臣多立其私智以法為非者,是邪以智,過法立智。如是者禁,主之道也。


 人臣が伊尹や管仲の功を讃えようというのであれば、それは法律に背き邪知を振るう下地ができ、比干や伍子胥が忠義を示しながらも殺されたことを引き合いに出し始めれば、自分都合の諫めごとを言い出して人主に張り合おうとする。そもそも古の賢王を真っ先に引き合いに出したり、最悪の暴君を真っ先に出したりするのは、あまりに極端な例示というしかない。このような者たちを引き合いに出すのは禁じるべきである。君主が法を立てるのは、それが正しいことであると知るがゆえである。しかし人臣の多くは自らの賢しらさを振りかざすのが正しく、法は正しくないものである、とまで言い始めたりもする。こうしたものの頭を、それこそ法で押さえ込まねばならない。



「夫上稱賢明,不稱暴亂,不可以取類,若是者禁。」がとてもしゅき。韓非の前の世代も、後の世代も軒並みぶん殴る方向の話をしてきておる。そして中国史上に名の残る人たちを見てると、ほとんどのひとが韓非ちゃんのこのごもっともなお言葉の意味理解してないっぽい。いやぁ、しかしこの人この時代によくこれ言い切っちゃってるもんですわ……誰も理解できなかったろこんなん。


あ、慕容徳はここにカウンター食らわしてましたね。

https://kakuyomu.jp/works/1177354055365070928/episodes/16816927859085282979

臣下より「燕復興」の功績が夏の少康、漢の光武帝にも比肩するものだと言われたので、「ハハッよくもまあそこまで誇大広告を打てるものだ」と笑っています。こういうの見ても、慕容徳ってかなり優れた統治バランス持ってたひとなんだろうなあってのは感じるのだ。惜しむらくは、人君になったタイミングがあまりにも遅かったことでしょうかね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る