5.
3人で囲むテーブルには、天ぷらがてんこ盛りだった。
「おばーちゃん、最近晩ごはん多くない?」
「そりゃあミズキが勉強
「それは……うん」
「にいちゃんもたくさん食べてねえ」
「あ、はい」
灯台で話して以降、ミズキは勉強してくれるようになった。まあ単純に、最近が雨ばっかりで外に出かけることができないからかもしれないが。
それにしても10月でもこんなに雨が続くんだな。連絡船が欠航続きだとおばあさんも
「にいちゃんも疲れてたでしょー。まだまだおかわりあるからねえ」
「ありがとうございます。でも俺、何もしてないですよ」
不登校でぜんぜん勉強していないだろうし、教えるのは骨が折れそうだと思っていたら、まったくそんなことはなかった。きっと俺なんかよりもずっと頭がいいのだろう。
「それこそ、俺が教えなくてもぜんぜん大丈夫だと思います」
「そんなことないさー。ミズキだって、教えてもらえてうれしいでしょー?」
「そうなのか?」
いやいや、まさか。
「はあ? そんなことあるわけないじゃん」
「でもミズキー、にいちゃんが部屋に来る前、鼻歌を歌ってたさー?」
「お、おばーちゃん!」
「恥ずかしがることないよー。ミズキはにいちゃんのこと、好きだもんねー?」
「そ、そんなんじゃないってば! もう、ごちそうさまっ」
ごはんを一気にかきこんで食器を片付けると、そそくさと退散していく。
それから少し経って俺も食べ終えると、おばあさんがあたたかいお茶を入れてくれた。
「ありがとうねえ。やっぱりにいちゃんに頼んで正解だったよー」
「いえ、俺はただ、泊めてもらう代わりにやっただけですし。……それに、お礼の言うのは、俺の方です」
「んー?」
「ミズキに勉強を教えるようになって……あいつが一生懸命やってる姿を見て、少し自分のこれからが見えてきた気がするんです」
ここに来た時には完全に止まっていた俺の時間。それがほんの少し、動き出したように思えるのだ。まだかすかな光だけど、動き出す先も、見えてきた気がするのだ。
「それはよかったさー」
おばあさんは笑う。
「でも、ちょーっとさみしくもあるねえ。
「そんなことはないと思いますけど――」
俺が言葉を返すと、それを遮るかのように「どん」と重たげな音がした。テーブルの上にあるのは……ガラスの瓶。中には赤みがかった液体と、果実?
「えーっと、これは……?」
「うちでつくった梅酒さー。にいちゃんも一緒に飲むよー」
そう言って瓶のフタを開ける。すぐさま濃厚な梅の風味と、しっかりとしたアルコールの香りが漂ってきた。
これは間違いなくおいしい。だけどそれ以上に、酔ってしまう。俺の直感がそう告げる。
「あ、でもまだこれからミズキに勉強を」
「今夜くらいかまわないよー。ほーら、遠慮しないでねえ」
「あはは……は、はい」
いつの間にか置かれていたグラスを持ち上げて、ぐいっと飲む。瞬間、きゅーっと頭が熱くなるのがわかる。
それからいろんな話をして、飲んで、また話をして。
結果、俺が酔いつぶれてしまったのは言うまでもなかった。
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