第3話 魔石と、月の主成分の推定と。
就職は、苦しみの始まりだったという話はよく聞く。
職に就くことで、学生や子供という身分を失い、大人や社会人という身分を得る。ついでに、責任という重荷も。
それにしても、僕が就職初日で背負った責任は、ちと大きすぎやしないだろうか。
昨日、解散直前にバーゼフは言った。
「あ、そうだ。ちなみに、僕たち以外に今後の王国の道を模索している班はいくつかあるわけだけれど、その大半は、どうやってもう一つの大陸を手中に収めるかを考えているんだよね。つまり、僕たちは、和平派、言い換えれば、穏健派の最後の希望になりうるってことだよ。そういうことだから、頑張っていこう。」
そして、二日目となる今日、特務大隊の入っている部屋に、4人は集まっていた。
「さて、どうするかな。昨日は私からいろいろと説明させてもらったわけだけど、何か気が付いたことがあれば教えてほしいところなんだが。」
まず、ヴォルフ博士が切り出した。
僕が答える。
「まずは、もっと高度な魔力の観測が必要だと思います。
博士から教えていただいた、この『太陽の放射魔力の計測』という論文ですが、これを見る限り、計測誤差は、総放射量に対して、数%を下らない値になっています。
僕たちは、月からの放射魔力を計測することが目標なわけなのですが、これは、到底現在の観測技術では検出できないレベルです。魔石の総量が博士の計算の上限値だとしても、太陽からの放射量の0.2%程度なわけですよね。これはひいき目に見ても、現在の検出器で検出できる能力の1/100程度。さすがに、検出できないんじゃないでしょうか。」
ヴォルフが答える。
「うんうん、よく理解しているし、非常に的確でかつ厳しい意見だ。君の言う通り、現在の計測精度では、月からの放射を計測するのは困難だ。で、何かいいアイディアはあるかね?」
再び僕に振られてしまったので、
「うーん、なんとも言えませんが、ちょっと計測について教えてほしいので、実際にどうやって測っているのかを見せてもらえませんか?」
とお茶を濁した。
「ふむ、そうだね。それがいいだろう。計測に使ったシステムは今も魔導研究所の波力計測システム開発室にあるはずだ。行ってみて、太陽の魔力放射の計測を見せよう。」
とヴォルフは答えた。
バーゼフが楽しそうな顔でいう。
「よし、じゃあ、さっそく波力計測システム開発室に行ってみよう。」
そういうや否や、内線電話に向かい、受話器を取ってハンドルを回し、交換台を呼び出し始めた。
「あ、つながった。もしもし、特務大隊のバーゼフ少佐です。波力計測システム開発室につないでいただけますか?」
少しの間ののち、先方につながったようで、
「もしもし、特務大隊のバーゼフ少佐です。太陽からの魔力放射計測について、私たちのほうでも検討したいことがありまして、ヴォルフ博士を含め、4名でお邪魔させていただきたいのですが、ご都合のほうはいかがでしょうか。
あー、はい。そうですね。計測装置も利用させていただきたいのですが、皆様のお仕事の邪魔をしてもいけませんし、そちらのご都合に合わせます。
えっ、本当ですか、助かります。
では、すいませんが、これからお伺いしますね。」
と何度かのやり取りの後、電話を切った。
「うん、先方のご厚意で、これから行ってもいいことになったよ!」
さわやかな笑顔をこちらに向けるバーゼフに、(いや、王族からの突撃電話をしれっと断れる奴はなかなかいないんじゃないかな...)と思う僕であった。
まあ、何はともあれ、行けるようになったことは良いことなので、僕たちは、波力計測システム開発室に向かう。
******
波力計測システム開発室は、僕たちの居室がある棟とは少し離れた場所にあった。バーゼフがノックして、彼が満面の笑みで、僕たちが申し訳ない顔で入っていくと、開発室のメンバーは案の定、委縮した調子で、おっかなびっくりと対応してくれた。
なんだかんだで、計測システム一式を見せてもらったのだが、それはツェップアンテナのような形の魔導銀でできたアンテナと、小さなスーツケース程度の大きさで、メーターが埋め込まれた箱であった。
ヴォルフが説明する。
「計測はこのアンテナで行う。これは前世の航空通信でも活躍した高利得で比較的作成が容易なツェップアンテナを魔力検出用に調整したアンテナだ。こっちの箱は検波器で、原理的にはホイートストンブリッジの応用だ。高い精度で安定した魔力を出力させ続けることは極めて難しいので、魔導抵抗値が釣り合うようにブリッジ回路作ったうえで、回路の一辺にアンテナで受信された魔力を流し、反対側の抵抗値を引き上げて回路の平衡を取り直すことで、高精度にアンテナが受信した魔力を測定するように工夫している。平衡は、このスライダーバーで右下の魔力抵抗の値を変えることでとり、このメーターの針がぴったり中央を指したタイミングが平衡点になる。このタイミングのスライダーの値が、アンテナが受信した魔力に対応することになるというわけだ。」
「そうすると、計測はこの中央のメーターの値が0になっていることを確認して、スライダーのメモリを紙に書き留める形なんですね?」
僕が尋ねると、ヴォルフ博士はうなずく。
「その通り。まず改善案だが、この試験機をさらに大型化することを考えている。魔導抵抗の製造誤差は、直列化すればするほど小さくすることができる。例えば、抵抗値が5000MARL《マール》の高品位魔導抵抗器は、25MARLの製造公差がある。これは、今利用している魔導抵抗の抵抗値が95%の確率で5000±25MARLの範囲に含まれるということを示している。この魔導抵抗を2個使うと、抵抗値は2倍の10000MARLになるが、製造公差については、2倍にはならずに、
なるほど、そうすれば確かに多少の性能向上はできるだろう。
しかし、
「なるほど。確かにそれで倍ぐらいの性能にはできるかと思います。でも博士、僕たちは、この装置の検出能力を100倍以上に上げないといけないわけです。なんと言ったって、月で反射して地表まで戻ってくる魔力は、現在の計測限界値の1/100という予測があるわけですからね。どうなんでしょうか。100倍上げることはできるのでしょうか。」
と僕は答えた。
ヴォルフ博士はそれに答える。
「正直なところ、この方針では無理なことはわかっている。で、どうしたら良いものか。何か良いアイディアがあれば教えてほしいぐらいだ。」
僕は少しだけ嬉しくなりつつ答えた。やっと僕の出番だ。
「安心してください、博士。こんな感じの装置ならば、僕の出番だと思います。研究室に戻って打ち合わせしましょう。」
そう、これは僕の出番だ。
第二次大戦時、ドイツ軍はイギリス軍に対してレーダー技術では劣勢だったという。そして、半導体技術が開発された1950年代以降は、一気に信号解析技術が花開いたということもある。
現代の電磁通信技術は、この問題を華麗に解決してくれるはずだ!
******
「ヴォルフ博士、博士がおっしゃっていた方法は、回路の部品で平均処理をすることによってノイズを低減しようという試みでしたが、観測値の読み取りは依然としてスライダーの値に頼る形式だったかと思います。そこが大幅な精度向上のポイントなんじゃないかと思っています。」
研究室に戻って、僕はこう切り出した。
実際のところ、第二次世界大戦末期と僕が生きていた「現代」ではセンサー技術の向上と計算機により信号処理で、電磁波の観測精度は10000倍以上の精度向上がなされている。今回に関して言うと、ポイントはアンテナの性能向上と、観測回路の中でのノイ除去および増幅、そして、観測回数の増加の3点があるだろう。
「僕ができる精度向上に関する提案は3つです。
一つ目は、アンテナの形式変更。次に、検出回路の専用設計化、そして、最後に計測の半自動化です。まずは、アンテナの形式変更ですが、ヴォルフ博士は、『八木・宇田アンテナ』というアンテナをご存じですか?」
ヴォルフ博士は首を横に振る。
「おそらく博士の存命だったタイミングでは、あまり一般的ではなかったと思います。実は、僕の前世の母国で開発されたアンテナなのですが、母国ではあまり注目されず、敗戦後にアメリカが利用していたのを逆輸入して技術導入させたぐらいなんです。このアンテナは、効率的に電磁波をとらえることができます。幸い、ヴォルフ博士の研究によって、太陽から放出されている魔力の周波数帯域はある程度絞り込まれていますから、ここからもっと効率的な魔力の受信はできるようになるでしょう。」
「それができれば素晴らしいと思うんですけど、そのアンテナは、今の私たちの技術で設計できるんですか?」
しばらく様子伺いをしていたテレシフ大尉が質問してくれる。
「はい、実はそこまで難しいものではないんです。昨日の様子から、テレシフ大尉は数学得意そうですし、こちらの設計をお任せしようかと思います。
設計に必要な方程式などはこの後詳しく説明しますが、簡単に言うと、導波器と呼ぶ共振を起こすための棒と、輻射器と呼ばれる棒、それと反射器と呼ぶ棒の3種類の棒を、決まった間隔で配置すればよいというものです。
単に棒を長さを決めて並べれば用だけなので、知識さえあれば簡単に設計し製造することができます。」
「わかりました。必要な情報を教えていただけたら設計を行ってみます。」
テレシフ大尉が快諾してくれたので、次に進む。
「二つ目は、計測値を読み取る仕組みを電気的に作ることです。これについては、まだ僕もどうすればうまくいくのかがわかっていないので、いろいろと調べないといけないと思います。でも、この技術は、計測の世界を変えるようなものになるはずです。博士は、<
僕はダメもとで聞いてみる。
「いや、さっぱりだが、それはこの世界の言葉かな?それとも、前の世界の言葉かな?」
「実は、1940年代にどういう風に呼ばれていたのかわからないので、前の世界の言葉で言えないのです。離散数学は昨日お話しいただいたときに出てきていましたから、連続関数と離散関数はありますよね。<連続-離散変換器>は連続的な自然現象を、離散的に計測するための機器です。これを使って、離散的なデータを用意すれば、電気的な論理回路を用意して、計測値を処理することができます。これが、3つ目の策です。」
「その論理回路というのは、
「その通りです。」
一通り話したところで、ヴォルフ博士は腕を組み考え込んだ。
僕は言葉を重ねる。
「確かに、言っていることが困難なことは分かります。でも、僕たちは宇宙開発もしなければならない。そのためには非常に高度な計算を複数行う必要があります。それには、どうしても高速な計算機が必要です。結局最後まで行くしかないんです。」
この言葉を聞いて、ヴォルフ博士は「えっ?」という表情で顔を挙げた。
なぜか、テレシフ大尉も「あれっ?」という表情でこちらを見る。
ヴォルフ博士が言った。
「宇宙開発には、そんなに難しい計算がいるんだったかな?準問題も逆問題も不定方程式になることはあれど、解析的に解が求まるような話だけだったと思うが...」
今度は、僕が「えっ?」と思う番だった。
そして、僕は気が付いた。
この人たちは、パソコンがない時代に、ガチで物理学や工学を研究してきた猛者だったのだと。そして、彼らにとって宇宙飛行で必要な計算は、少し高性能な計算機があれば解けてしまうようなものなのだと。そう、旧ソ連が最初の有人飛行を行うのに必要な計算をちょっとした卓上型計算機で成し遂げてしまったように。
そして僕は誓った。
(絶対にちゃんとしたコンピュータ作ろう。この人たちにコンピュータなしでは絶対に太刀打ちできない。)
******
さて、少し脱線してしまったが、元に戻って、僕たちは、必要なことを整理していった。
僕たちが開発で必要なものは下記のようになる。
(1) 太陽からの魔力放射を計測するための八木-宇田アンテナ
(2) 計測値を電力に直すための、魔力-電力変換素子
(3) アナログ-デジタル変換器と論理回路用の半導体
このうち、(1)は、テレシフ大尉がやってくれることとなり、設計に必要な素子の長さと波長の関係式や素子間の距離などを伝えた。
(2)は、「一体何か月かかるかわからんが、わしの仕事に違いない。」と言ってヴォルフ博士が引き受けてくれた。
そして、僕の仕事は(3)。というか、最も絶望的な仕事だ。言い出しっぺだし、しょうがないのだが、さてどうしたものか。
元の世界で使われていたアナログ-デジタル変換器には、多種多様なものがあったが、今回は比較的僕たちの用途と相性がよく汎用性に優れるデルタシグマ型の開発を目指そうと思う。このために必要なものは、ある値を境に電気を通さない非導通の状態と、電気を通す導通の2状態を取るような素子、すなわち「半導体」と、その半導体の出力を一時的に保存しておくレジスタ、それに、それらの回路を高速に動作させるために外部クロック回路だ。
こういって書き出してみるとあっさりしているように見えるが、これを実現するのは、かなり苦労することが予想される。というのも、半導体は、比較的設計・製造しやすいガリウム半導体でも、かなり高純度なガリウム結晶を用意しないといけないし、レジスタを用意するためには、トランジスタを用意しないといけない。外部クロックは、水晶発振子が必要だし、前途多難だ。しかし、僕たちの暮らすこの国は、今まさに加速度的な科学・魔法技術の発展を経験している国で、もっと言えば、この世界は、今まさに発展中の勢いがある世界だ。きっと必要なものも、原型はどこかで開発されているに違いない。
と、思っていた時期もありました。
特務大隊が王国内最大の研究機関 魔導研究所にあるのをよいことに、僕は片っ端から連絡を取り、利用できそうな技術を調べて回った。その結果わかったことは、この世界の生活水準は、元の世界の1970年代の先進国に迫る勢いがあるものの、それは科学技術と魔法の合わせ技によるもので、科学時術そのものは、1940年代後半くらいの水準であるということだった。
半導体という概念は存在するものの、トランジスタはまだ開発中の夢の素子で、「えっ、我々の研究室で構想しているものをなぜご存じなんですか!?」と聞かれたときは返答に苦労した。
水晶発振子は存在したが、まだまだ不安定で、机一つ分、丸々使うような大掛かりな装置だった。
******
結局、あっという間に一週間がたち、僕たちは、進捗を報告しあうことになった。部屋に集まり、ヴォルフ博士、テレシフ大尉、僕の3人で机を囲む。
僕は、気が進まないながらも、口火を切った。
「おはようございます。皆さん、前の方針決定から1週間経ちました。ですので、進捗の報告会をしようと思います。」
一度、言葉を切り、ざっと顔色をうかがう。ヴォルフ博士は、なんか気のせいか彫が少し深くなったような気がする表情で、あまり良い顔はしていない。僕も、きっと苦いコーヒーを飲んだような顔をしていることだろう。同類を見つけて僕は少しだけ安心する。テレシフ大尉は、いつも通りだ。キリリとして精悍な顔つき。女騎士的な緊張感の中にどんな話題になるんだろうという期待が少し混じったその表情は、僕は再び暗い気分にさせる。
「まずは、僕からなのですが、残念ながら、あまり進んでいません。僕が担当したのは、アナログ-デジタル変換器の設計と、理論回路の設計でしたが、わかったことは、この世界の技術では、まだかなり困難だということでした。
変換器に必要な性能がおおよそはっきりしているので、必要な素子の性能を概算して、研究所内のいろいろな先生方に、聞いて回りました。しかし、結局のところ、必要なものは手に入らなさそうなので、既存のものを大きく改良していくか、方針を変えるほかなさそうです。
アナログ-デジタル変換を実現するためには、電圧に応じて非導通-導通の状態を変える半導体がまず必要でした。しかし、この世界には、アナログ-デジタル変換器に使えるような高速な半導体はまだないようです。計測を行うタイミングを決定するために利用しようとしていた水晶発振子は、存在していましたが、必要な精度にはなく、大きさも実験室の机いっぱいに実験装置を組み合わせたようなものでした。
正直、かなり見込みが甘かったと思っています、何かの方針転換が必要だと思います。」
おそるおそるほかの二人の表情を見る。
ヴォルフ博士は、やはり難しい顔をしているが、少し暗さが和らいだか?テレシフ大尉は、気持ち優しい表情になってくれている気がする。
ヴォルフ博士が口を開いた。
「実のところ、私の担当分も、まったくもってめどが立たなかった。
試みたことは、魔力-電力変換器の開発だが、幸か不幸か、丁寧に調べたところ、どうやら魔力を電力に変換することはできるようだ。だが、変換には、かなり特殊な素材が必要で、かつ効率も悪く、その効率も安定しないということが分かった。私からしても、方針変更を薦めたいところだ。
とりあえず、もう少し詳細を話そう。
まず、魔力を電力に変換することだが、直接変換できる素子は残念ながらなさそうだった。だが、魔力は、磁気と干渉することを思い出して、魔道鉄でコイルを作り、その周りをコイルで囲むことで、磁場を媒介として、魔力を電力に変換することができた。言ってみれば、ある種のトランスを作ったことになる。
しかし、この素子は出力が全く安定しないのだ。魔石から魔力を取り出し、このトランスのような変換器を通して電力にし、電球に導いてみると、明るさは安定せず、かなりふらついてしまう。しかも、魔石の概算の保有エネルギーと、電力として取り出せているエネルギーの推定値の間には、100倍くらいの開きがある。
これではとれもではないが、使えないと思う。」
ヴォルフ博士は、とりあえず全部吐いた、というような顔をしつつ、説明をしてくれた。僕もテレシフ大尉も、「んー」という唸りしか上がらない。
ちょっとして、自然とテレシフ大尉に視線を向けると、テレシフ大尉が口を開いた。
「私の方は、幸い比較的簡単なお題をいただいたので、何とかなりました。」
僕とヴォルフ博士が、そろって、「ふぅ」と息を吐きだす中、テレシフ大尉が続ける。
「ヨハン少尉が教えてくださった、八木宇田アンテナの理論と、設計に関するノウハウを基に、いくつかの試作品を設計してみました。その結果、太陽から放射されていた魔力の周波数帯域がはっきりしたのですが、面白いことに、いくつかの周波数で特に強い放射があるようでした。エレメント数を増やしすぎると、特性がピーキーになってしまい、安定して受信できなくなることが分かったので、アンテナ本体は8エレメントのループ素子のアンテナになりました。また、波力計測システム開発室の皆様が協力してくれて、強い放射がある周波数でチューニングする魔導回路も用意することができました。」
「こちらです。」と言いながら、全長2m近い、かなりごついアンテナを見せてくれるテレシフ大尉。
僕とヴォルフ博士は、あまりの進捗に呆然としていた。
「素晴らしい。よくぞこの短期間でここまでやったものだ。」とヴォルフ博士。
「本当にそう思います。私ではここまでうまくはできなかったと思います。脱帽です」と僕も称賛した。
テレシフ大尉的には、「いや、それが、波力計測システム開発室の皆さんが、すごく手伝ってくれて...、彼らの功績が大きいと思います...」とのことだったが、すごいと思う。
******
一回、仕切りなおすことになり、ヴォルフ博士がコーヒーを淹れ始めた。僕たちが代わるといったのだが、「もう半世紀近くもルーチンでやっているから、やらないと落ち着かんのだ。君たちの分も用意するから心配しなくても良い。」と言われ、心配のピントがずれていることは飲み込んで、コーヒーをいただくことにした。
せっかくなので、その間に、テレシフ大尉に先ほどのアンテナのことを詳しく聞く。
「大尉、さっきのアンテナのチューニング回路なんですが、もう少し詳しく教えてもらえませんか?」
「あぁ、チューニング回路を作ったのは、私ではなくて、波力計測システム開発室のベルフ研究員なんですが、ざっくりとした説明は伺っています。
最近、魔導素子の業界で、新しい素子が開発されて、それが、電気回路のコンデンサのような役割をすることが分かったそうなんです。そこで、それと、魔導銅性のコイルを使って、同調させるようなものを用意してくれたんです。」
「へぇー、コンデンサに該当するようなものが魔導素子で開発されたんですね。そうすると、そのうち電気回路でできることは、魔導回路でもできるようになるのかもしれませんね。」と返した時、僕はふと思った。
あれ?よく考えたら、シグナルメーターって、元の世界の第2次世界大戦のころからなかったっけ?何なら、オシロスコープとかもそれぐらいのころからあったような...
「ほら、できたぞ、カップを取りに来てくれんか」とヴォルフ博士が呼んでくれたので、コーヒーを取りに行き、再びテーブルを囲んだ。
「さて、で、どうしたもんかな。ヨハン君は、何か良いアイディアが浮かんだかね?」ヴォルフ博士が尋ねた。
「実は、さっき、ふと思ったのですが、僕は前世の技術の再現にこだわりすぎていたのだと思います。」
僕が答える。
「というと、どういうことだね?」
「ええ、よく考えれば、ヴォルフ博士の魔力検出器は、アナログ回路でも十分に強化できるものなんだと思います。さっき、テレシフ大尉が教えてくれたのですが、コンデンサの代わりになる魔導素子が開発されているそうです。
ならば、博士の検出器、同調回路とOPアンプを付ければ、電波でいうラジオのようにある周波数帯域の魔力を同調増幅した状態で観測ができるようになるんじゃないですか?」
「ほぅ、なるほど。」ヴォルフが考え始めた。
テレシフ大尉がちらっと僕たちを見ながら話し始める。
「私の用意したアンテナと、元から使っているツェップアンテナの利得の違いを調べれば、アナログ増幅回路で稼げるかはわかるかもしれません。利得は、計算上は、30-40倍になっているはずなので、あと20-30倍増幅できれば、月面から放射されてきた波動を検出できるんじゃないかと思います。一度比較のために測ってみますね。」
僕とヴォルフ博士は、ぜひと言って、お願いした。
テレシフ大尉は内線電話で波力計測システム開発室に連絡をし、ちょっと外出しますと言って計測に出て行った。
僕たちは、魔導素子の性能仕様書を取り寄せ、増幅回路の検討を始める。
幸いなことに、ヴォルフ博士の解析し、テレシフ大尉の計測した魔力伝播の周波数帯域は、僕たちの持つ簡易な知識で取り扱えるような周波数帯域で、すぐに増幅回路の設計はできた。ノイズ対策と同調のための、バンドパスフィルタの設計では、ある方向にのみ魔力を通す「ダイオード」に相当する魔導素子が必要だったが、なんと、調べてみたら、ちゃんとそのような素子が存在した。回路の設計精度も加味して、2段増幅までが限界だろうという結論に達し、さらに設計を詰めたところ、僕たちは、増幅率64倍の検波増幅回路を設計することができた。しかも、コンデンサとダイオード相当の2種類の素子ができたことで、平滑化回路が設計できるようになり、魔力波の強さを示すメーターの設計もできるようになった。
設計した回路と装置を魔導研究所の工作室に発注し、仕様の詳細を詰めていると、テレシフ大尉から電話があった。
「ヨハン少尉、利得ですが、ツェップアンテナに対して、35-42倍の間で向上していました。」
電話口から、うれしげなテレシフ大尉の声が聞こえる。
「わかりました。さっき、僕とヴォルフ博士で検波増幅回路を設計したんですが、理論増幅率は、64倍です。これで目標まで間近になりましたね!」
今度はこっちもニッコニコで答えることができる。こちらの喜びが伝わったのか、
「ええ、難航しそうと思っていましたが、何とかなりそうで、とっても嬉しいです。では、また部屋に戻りますね。」と普段よりテンション高めの返答が電話口から聞こえ、電話が切れた。
******
完成した魔力波の検出器は、非常に強力で、試験的に運用した時には、魔石から引き出した魔力により導線から漏れ出したごくわずから魔力波もとらえることができるものになっていた。以前のシステムと比べた性能向上率は、約2400倍に及んでいた。
当然、そのままでは太陽などの強力な魔力源は測れないので、内部に魔力抵抗を利用した感度セレクタを用意し、計測可能な範囲を見かけ上広げた。
そして、二日後、バーゼフを含めた4人が全員揃ったタイミングで、月の観測を始めた。この世界には、月は3つある。近い方から、「第一の月」「第二の月」「第三の月」という、わかりやすくも飾り気のない呼ばれ方をしていた。今日は、夜半までにすべての月が比較的空の高い位置に見える条件の良い日だった。日が沈み、茜色の空は、次第に群青になり、さらに黒へと移り変わっていく。僕とヴォルフ博士は、ジュラルミンケースに収められた計測器に、新しい魔石をセットし、測定の準備を始めた。テレシフ大尉は、赤道儀にアンテナを乗せ、動作を確かめている。
日没から2時間ほどたち、空から茜色が消えたころ、バーゼフが声を上げた。
「さぁ、そろそろ始めようか。」
皆でうなずき、作業を始める。
テレシフ大尉は赤道儀の動力用の錘のロックを解除し、各軸のクラッチを繋いで太陽の沈んだ方向へと設計したアンテナを向けた。
まずは、太陽の影響がないことを念のため確かめるのだ。
ここまでの改良で得られたデータをもとに更新した、予想される月からの魔力波の強度は、最も強く観測されるはずの第一の月で太陽の放出量の約1200分の1。これよりも大きな魔力波が月以外の場所で観測されたら、そもそも月からの魔力波を観測することはできないことになる。
僕たちは検出器のスイッチを入れて、セレクターを倍率の小さな方から徐々に上げていく。
太陽を観測していた時の10倍の感度では、針は動かなかった。
100倍、やはり動かない。1000倍、針は少し振れた。値は、太陽の2000分の1程度。これならいける。
ヴォルフ博士が「ふぅ~」と安堵の息を漏らす中、僕は読み上げた。
「大丈夫、計測値は太陽の2000分の1です。ノイズは十分許容範囲内です。」
テレシフ大尉は、うなずくと、赤道儀を操作し、今最も高度が高い位置にいる、最も近い月「第一の月」へとアンテナを向ける。ガイド用の望遠鏡をのぞきつつ、テレシフ大尉はアンテナの向きを調整する。
「入りました。」
彼女の声を聞き、僕たちは、再びセレクタを操作する。
10倍、当然針は動かない。
100倍、やはり動かない。いや、少しぴくっと動いた気がする、しかしはっきりしない。
1000倍にセレクタを入れたとたん、針が大きく動いた。
「「「やった!」」」
いつの間にか後ろに来ていたバーゼフとともに、3人で歓声を上げる。
シルエットからこちらを見ていることがわかるテレシフ大尉に、値を読み上げる。
「太陽の1300分の1です!魔石由来の放射があります!」
「やりましたね!」テレシフが声を返してくれた。
「では、次に行きます。」テレシフが声をかけた後、第二の月にアンテナを向ける。
やはり、検出回路は魔力波をとらえた。
「太陽の1500分の1です。」
「最後、第3の月に向けます。」
僕とヴォルフ博士は、さっきまでの経験から、セレクタを1000倍にして、第3の月に向かうのを待っていた。
「えっ!?」バーゼフが声を上げた。
テレシフがすぐに赤道儀を止め、僕とヴォルフ博士は、バーゼフの方を見る。
「どうした!?」ヴォルフ博士が聞く。
「いや、メーターを見てください。」
メーターは、まだ月が完全に入っていないにもかかわらず、振り切れんばかりに触れていた。
「こんなに強い強度があるなんて」僕の口から意味をなさない言葉が漏れる。
「大丈夫ですか?何かトラブルですか?」とテレシフ大尉が聞いてきた。
「大丈夫です、でも、第三の月の魔力波の強度は、先ほどの2つとは比べ物にならないようです。」と僕は答える。
「よかった」と言いつつ、テレシフ大尉は、第三の月にアンテナを向けた。
僕たちは、セレクタを変えて、計測をする。
「太陽の800分の1です。」
予想外の値に、みんなで驚いた。
バーゼフは言った。
「よし、これで僕たちの目的地がはっきりする。僕たちはこの観測で目的地を決め、そこで高純度の魔石を採取して、我が国の延命を果たすんだ。」
完全に日は落ち、3つの月が冷たく照らす中、発言したバーゼフの顔はよく見えなかったけれど、彼が本気なことはよく伝わってきた。
"普段は
そのあと、僕たちは、月が沈んでいくまで、確固たる証拠を求めて魔力波の強度を測り続けた。
明け方に、疲れ切りながらも、すがすがしい気分で僕たちは解散し、作業は翌日へ持ち越されることになった。
*********
翌朝、
いや、正確に言うと、翌昼か。
もう昼食時も過ぎたころ、僕たちは、大隊の居室に集まった。
「さて、みなそろったところで、緊張の計算だ。」
バーゼフが音頭をとる。
「計測値は、ヨハンがまとめて記録してくれたんだったね。」
「はい。昨日の計測値がこちらになります。」
僕は、昨日の魔力波の強度計測の測定値を記入した表を机の上に並べて、説明を始めた。
「皆さん一緒に計測していたので、説明は不要かと思いますが、整理の意味も込めて、昨日の計測の方法から改めて話します。昨日は、初期計測を行った後、誤差排除と平均化のために、複数回の計測を行いました。計測対象は、"背景"にあたる、魔力源がなにもなさそうな星空と、第一から第三の月の4つでした。
背景の値は、魔力測定値の基準にするために計測しているわけですが、もちろん、太陽から魔力が放射されているならば、ほかの恒星からも放射されているはずで、真に何も信号がないわけではありません。要は、平均的な魔力波の強度はどれくらいなのかという指標を作るために計測を行ったわけです。
この背景の値の計測は、全部で132回行いました。
次に、第一の月の値ですが、こちらは、28回の計測でした。第一の月は、最も近く、大きく見える月で、見かけの大きさ"視直径"は0.5°あります。これは、水平線から、真上までが90度なので、その1/180の大きさを占めるということになります。一方、私たちの用意した魔力計測用の八木宇田アンテナの空間分解能は、半値幅で5度ほどでした。計算上のアンテナ特性から推定される理論値は、4.8度なので、半値幅5度は、妥当な値です。そうすると、アンテナを月に向けたときに、月の中での場所による強度の違いは、検知できないことになります。なので、月を計測した28回は同じ値を計測していることになるはずです。これは、視直径0.4°の第二の月と視直径0.3°の第三の月についても同じです。
その第二の月は、32回、第三の月は、30回の計測を行いました。
また、参考までに、太陽は試験観測を含めて、2日間で70回の計測を行っています。
私たちが処理するべきなのは、この合計292回の計測データです。」
「ありがとう。では、これを処理しないとね。」とバーゼフが受けて言う。
と、すぐに、
「あ、でも、計測値が出た後、表面の魔力密度の推定を行うための換算式も必要になるね。これはヴォルフ博士にお願いしていいですか?」と続けた。
「わかりました。その式はいじり途中だったので、これから取り掛かって完成させましょう」とヴォルフ博士。
「じゃあ、残りの3人で、解析だ。僕は太陽をやるから、ヨハンは月、テレシフは背景の処理をお願い。そうそう、喜んでいい、計算機を借りてきた。」とバーゼフが続け、机の上の手回し計算機を指さした。
”あー、表計算ソフトがあれば一発なんだけどなー”と思いつつ、僕たちは卓上手回し計算機を手に取る。
「さてと、」と言いながら、僕は3つの月の計測値を書き込んだ表と、新しい集計用紙を手に、自分の机へと向かった。
「うーん」と伸びをしつつ、テレシフ大尉も立ち上がり、背景計測の計測値が書かれた表と集計用紙を手に、同様に机に向かった。
「さあ、頑張ろう!」とバーゼフも同様に机に向かう。
しばらくは、手回し計算機に値を代入するカチカチという音と、計算させるガチャガチャという音、それに、割り算の桁落ちを知らせるチ~ンという音が響いていた。
*********
しばらくして、バーゼフの机が静かになり、紅茶を入れる香りが漂ってきた。次いで、テレシフ大尉の机も静かになり、彼女がバーゼフのもとに手伝いに行く雰囲気を感じる。僕の計算も、最後の月の値を区間ごとに平均する段になり、チ~ンという音とともに、結果が出た。
集計用紙に結果を記入し、疲れた腕を振りながらみんなの集まっている机に向かう。
ちょうどお茶が入り、ショートブレイクが始まったところだった。
「3つ分の計算、おつかれさん。」
バーゼフがそう言いながら、ソーサーと、それに乗ったティーカップを渡してくる。
「明日は、指と腕が筋肉痛かもしれない。もう何回ハンドル回したか覚えてないよ。」
と言いつつ、僕は受け取り、一口紅茶を口に含んだ。
今日の紅茶はさっぱりとしたミント系のフレーバーで、ひと仕事終わったことも合わせて、とてもすがすがしい気分になる。
僕が机の上においてあった美味しそうなクッキーに手を伸ばし、一口かじったタイミングで、バーゼフが進捗の確認を始めた。
「さて、皆さんお疲れ様でした。集計用紙を見るに、解析組は、みんな一応結果が出たようです。ヴォルフ博士はいかがですか?」
「こちらも、一次近似だという条件付きだが、表面の魔石相当量に換算する式を作った。当然、宇宙空間での減衰とかはわからないし、魔石がどの程度の魔力を出しているかもよくわかっていないから、本当に概算の枠を出ないが、それでも相互比較をすることぐらいには使えるはずだ。」
「ありがとうございます。」と皆口々に答える。
ちらっとバーゼフが僕の方を
「なるほど、必要なのは、今回計測した放射量と…ん?
このαという文字は、『相対距離』と書かれていますが、何と何の相対距離ですか。」
概要をざっと確認していて気になったことをヴォルフ博士に尋ねる。
「あー、すまん、不親切だった。この式は、あくまでも比較用だから、それぞれの月までの距離を相対的に計算すればよいかと思って、そこは適当に書いたんだ。だから、そこには、正しい距離を入れても、第一の月までの距離で正規化した他の月の距離を入れても構わない。」
「なるほど」と僕は答える。
そして、テレシフ大尉とバーゼフの方を見た。その意図は、これ以上卓上計算機のタンドルを回したくないから。
その意図はどうやら伝わったみたいで、バーゼフはすかさず席を立ち...
テレシフ大尉が慌てて追いかける。
僕はそれを視野の片隅で見つつ、式の展開を軽く追って、検算の代わりとする。
ヴォルフ博士は、他の3人が計算した結果と、集計表の生データをざっくりと見て、データの概観をつかもうとしていた。
そして、二人は天文年鑑と手回し計算機を1台持って戻ってきた。
バーゼフが天文年鑑を開き、
「えーっと、昨日のタイミングでの月の距離は...」と言いながらページをめくる。
テレシフ大尉が計算機を慎重に机の上に起き、レバーを操作して値を代入し始めた。
「大尉、私がやりましょうか?」と僕は一応聞くと、
「大丈夫ですよ。慣れてますから。」と鮮やかに当然のように返された。
僕は、この時代に研究をきちんと行っている人間の逞しさに感心しつつ、紅茶をもう一口のみ、
「じゃあ、第三の月は私がやります。なので、第一と第二の月はお願いします。」
といい、計算機を取りに立ち上がった。
僕が計算を終えたとき、テレシフ大尉はすでに計算を終えて集計用紙に最後の値を書いたタイミングで、ヴォルフ博士は生データを見ながら、同じく計算機のハンドルを回し、なにかの計算を行っていた。
邪魔するのはちょっと申し訳無いなと思い、僕は、テレシフ大尉の方に、電卓を向け、
「大尉、第三の月の値はこれです。」
というと、「えっ?」と言いながら、テレシフ大尉は怪訝そうな顔をした。
すぐに気が付き、ヴォルフ博士もこちらに視線を移して来る。
僕は、テレシフ大尉がこちらに向けてくれた集計用紙を見た。
・第一の月: 3.752 ± 1.254
・第二の月: 5.753 ± 1.866
・第三の月: 18.26 ± 3.113
もう一度、自分の途中経過の値を見る。
「計算はあってると思う。バーゼフ、距離はこれで会ってるよね。」
「間違いない。それだよ。」
テレシフ大尉は、僕の横に計算機を持ってきて、検算を始めた。
逆に、僕はテレシフ大尉の計算した第二の月の計算を検算する。
テレシフ大尉が先に検算を終え、
「18.2593、以下は省略ですけど、あってます。」という。
僕も程なく検算を終える。
「5.7528なんちゃらだ。テレシフ大尉の計算もあってる。」
僕たちは、驚きつつ、バーゼフの方を見た。
バーゼフがまとめる。
「とりあえず、月に魔石がある可能性が高いことは、もう疑いの余地はないと思う。
で、どの月を目指すべきかという話だが、第三の月が、一番多いね。誤差を考えても十分すぎるぐらいの差がある。僕たちの目的地は決まったね。第三の月だ。困難を乗り越える価値がある、と僕は思っているよ。
厳密に言うと、採集と輸送の効率の問題があるから、産業としてどれが一番いいのかはまだ不明だ。でも、最遠の地を目的地に置くことは、挑戦の道筋としては妥当だと思う。」
そして彼は、満足げに宣言した。
「みんな、目的地は決まったね。」と。
かくして、僕たちの目的地は、最遠の第3の月に決まった。
最接近時の直線距離で52万km離れた、魔力波を桁違いに放出する場所が、これから数年間の僕たちの目的地だ。
窓の外に、ちょうど見えてきた、第三の月は、夜空に少し緑ががって輝いており、僕たちの欲望で汚してはいけないような、静かな場所に見えた。
異世界における月への挑戦 -Fly me to the moons- はざま @Boundary
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。異世界における月への挑戦 -Fly me to the moons-の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます