第14話 日曜出勤

 いろいろありまして日曜日に会社に行くことになりました。

 詳しくは書きません…、リコールがありその処理で物流現場が大変な時期があったのです。


 社員総出で作業をしていて、日曜も物流は大変でした。

 以前にも書きましたが、役員も社長も出社してましたね。


 さて…、そんな土曜日に携帯に電話がかかってきて、

「堀ちゃん、明日の日曜、午後だけでも来れないか…」

 と物流部の部長が言いました。


「明日は奥さんいないんですよ、小学3年の娘もいっしょならいいですけれど…」

 断る理由としては完璧だと思ったんです、事実だしね。

 平日に僕らは通常作業プラスがんばってましたから、休日出勤はかなり免除されていたのです。


 でもね…


「いいよ! 連れてきなよ! 明日な!」


 いいのかよ…、リコール処理の現場だぞ…。


*****


「本当に連れてきましたよ…」

 事務所に着くと娘を自分の部署に案内し、僕のデスクに座らせました。


「おお、ご苦労さん。 娘さんもごめんね、お父さん借りるね…」

 部長がそう言うと、他の人も見にきました。


「堀さんのお嬢さん、大きくなったね…」

 振り向くと社長がいました。


「あの取材の時のお子さんだよね…」

「そうです、あの子です」


 社長は昔経営企画部にいて、そのさいマスコミ対応をしていました。丁度そのとき弊社が「男性社員の育児休暇制度」と作りまして、実は堀とこの娘が新聞社や国営放送に取材されたのです。

 僕の娘は僕より社内では知られています。

 その取材のさいにいろいろと打ち合わせしたのが現在の社長でした。

 その時のお話は別の機会に…。


「大きくなったね、あのころから奥さん似の美人だったけれど…」

 褒めますよね…、そりゃあね。

 人当たりがよくないときっと大手メーカーの社長にはなれないでしょうから…。


「奥さん似ということにしておいて下さい」

 なんか役員から他の部署からも見にきてます。


「あの取材の時のお子さん…、へぇ…」

「かわいいから心配でしょ、堀さん…」


 そりゃあ心配だけれども…。


 娘は物珍しそうに僕のデスクの備品を見ています。

 山積みの書類やらパソコンやらポストイットや家族写真やら。


「パパ仕事してくるからいい子にしておいてね」

「うん」


 フォークリストを運転したり、トラックに指示したり、いろいろとやって事務所に戻ると、娘の前にオレンジジュースが置かれていました。


 さらに仕事をしてまた娘の様子を見にいくと、おせんべいがありました。


 ヤマト運輸と打ち合わせしたあとにまた事務所に行くと、チョコが何個も置いてありました。


 その後何度か様子を見に行く度に、どら焼き、ナボナ、ヨックモック、バターサンド、鳩サブレなどが山積みされ、ウーロン茶もありました。


「りほ…、なんでこんなにお菓子と飲み物があるんだ…」

「なんか増えてった…」


 周りを見ると、お姉さま、おじ様方が笑っています。

「ありがとうございます…」

 僕はみなさんに言いました。

「でもさ、りほ…」

「なあに…」


 ちょっと声を大きくして僕はこう言いました。

「パパ、いつもこんなに大事にされてないぞ、お菓子なんてヨックモックやバターサンドなんてどこに隠してたんだろう…。パパ、こんなにもらったことないぞ」


 山積みのお菓子、僕は少し娘に妬きました。

 娘はにこにこ笑っています。


「堀さん!」


 物流のベテランのお姉さま、吉村さんが僕に話しかけます。

 社長も顔をのぞかせました。


「ここでゲームとかやっているならね…、そこまでしないけれど」


「そうだよ、娘さんえらいよ」

 社長が続けます。


「公文のプリントやっているんだぜ…、えらいよ…」

「そう、だから教えてあげることはできないけれど、せめてね…、社長ね…」

「お菓子やジュースあげたくなっちゃうじゃない、普段の堀さんにあげる以上にさ…」


 ということらしいです。

 社長、めったに物流現場なんかにいないだろう…。


 その後、娘をフォークリフトの座席に座らせ写真を撮ったり、倉庫を見せたりしました。


 職場見学ではないですが、娘もなぜか皆さんも喜んでくれました。


 結局食べきれないお菓子は持って帰りましたね。


 毎日通っているパパよりずっと大事にされて、いいよな…。


 連載、とりあえず一度終わらせます。

 読んで頂きありがとうございました。


             了


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異動先はロジスティクス (鏡開きなど) @J2130

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