触れられない

夏伐

「あら、あなたから見る私って凄く美人なのね」


 俺の電脳デバイスからチサに映像を送った。

 映像の中で、俺たちは手を取り合い、唇を合わせて夕焼けの中を歩いている。

 彼女はそれを受け取り嬉しそうだ。


「俺たち付き合ってるけど、手もつないだことないだろ」


 チサに視覚デバイスはない。だからもう何も見ることはできない――こうして映像を受け取る以外には。


「そうね、もう何年になるかしら」


 俺は彼女の元の姿は知らないが、確かな知性を感じる彼女と話しているととても癒される。


「本当はいけないんだけどね」


「そうね、でも、あなたが私の担当になってから私は毎日楽しいわ」


「俺も」呟いて、俺は水槽に浮かぶ脳を見つめた。「チサ、愛してる」


「私も」


 水槽の脳につけられた音声デバイスが、彼女の疑似声帯を震わせた。

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触れられない 夏伐 @brs83875an

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