最終話「二人組の夜」


「僕は……本当は……」

 脳内で色々と纏まらない考えが廻る。自分の気持ちなんて、自分が一番分かっている。口ではあんなこと言ってしまったけど、本当はもっと彼女と一緒に色々……

 偶然出会った少女だっていい。自分が作り出した妄想だっていい。可能性があるならば、それに縋るべきだ。逃げずに必死に食らいつくんだ。

 一人で考えていると吹っ切れている自分がいた。曇っていた思考が晴れ、本当に自分がしたいことが見えてきたような気がする。闇の中に一筋の光を見た気がした。

「そうか……そう言うことか……」

 これが試練だったのだ。二人で支えあう関係を破綻させ、もう一度相手の必要性を感じる。失ってから大切なものに気が付くと言うやつだ。

 今まであれほど欲しかった冒険のスリル、自分をもう一度真摯に見つめなおす契機だったに違いない。これを経て、これを乗り越えることで、真の意味で前に進むのか。

「僕は……もう一度……鎖夜と、冒険がしたい!」

 この世界のからくりが判明した。二人の手を離す勇気が試されていたのだ。ゴールの見えない闇を彷徨って、本当の気持ちに気が付くことこそが試練だった。ようやくそれに気が付くことができた。

「僕は、もう迷わない!」

 闇の中、手を伸ばした。きっと鎖夜がそこにいる。そんな気がした。

「蒼夜!」

 再び二人の手が結ばれた。それに呼応して、色鮮やかな世界がまた顕現する。

「あたしはいつも何かに繋がれていると思ってた。敷かれたレールの上を小奇麗に歩くことしかできないと思ってた。でも違ったんだ」

 鎖夜はそう言って僕の手を強く握った。彼女もまた僕と同じように心の成長があったようだった。

 目の前には階段があった。塔の上に辿り着くための階段。この階段を上っていけば、最上階に行ける。そこで僕たちは人生をやり直すことができる。

 黙って階段の先を見つめる二人。


暫くの沈黙の後、


「また、現世で会えると良いね」

 彼女はそう言った。

「絶対にまた出会えるよ」

 だが、二人が元の世界で出会うことはできない。

 転生できるのはどちらか一人。鎖夜か蒼夜のどちらかだ。

 夜は二つもいらない。太陽は昇り、また、朝が来る。

 夜は必ず、明けなければならない。

 そのことを二人が知るのはまだ先のことである。


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二人組の夜 阿礼 泣素 @super_angel

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